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5
次の日の夜、田中は再び街へと繰り出す。
すると、喜び勇んだ様子の佳奈が彼のもとへ駆けてきた。
「田中さん! 凄いです!
今日は私の周りにいる人が皆、冷ややかじゃなく、穏やかになるんです!
ストリート宇宙飛行士の方も、
昨日とは打って変わって温かい目で見られていました。
どうしてこうも急に?」
田中は予想通りと言わんばかりににやついている。
「佳奈ちゃんは今日、めでたく結婚したんだよね。
お相手の名字は確か......尾田谷。
佳奈ちゃんが向こうの名字に合わせたのなら、そういうことだよ」
「え、どういうことですか? ......あ!」
なるほど。尾田谷 佳奈。
何という単純なカラクリであろうか。
空気人類はどうも名前で性質が決められているらしい。
しかし、ここで一つの疑問が生じる。
田中のフルネームは、田中一正。全く空気に関する名前ではない。
これは、簡単には紐解けない謎が隠されているようだ。
「これで今日から頑張れます! 本当にありがとうございました!」
「いやいや、俺は何もしていないよ。じゃ、しっかりね」
二人はそれぞれの持ち場へ別れた。
田中が担当区域の見回りをしていると、
二人の少年が気まずい雰囲気でそっぽを向き、
距離を置いて佇んでいる状況に遭遇した。
おおよそ喧嘩直後なのであろう。
まさか......。田中の嫌な予感は的中していた。
空気界隈の厄介者 木間瑞さんが、そこに居座っていたのだ。
彼は人並み外れた頑固者で、基本的に他人の意見には耳を貸さない。
年齢は55歳と、田中よりかなり上のベテランではある。
だが、気まずい少年たちを見ると、田中はいたたまれなくなった。
「木間瑞さん、こんばんは。
どうかそこをちょっとだけ避けていただけませんかね?」
木間瑞さんは田中の呼びかけに全く応じず、
かつての扇風機のようにどっしりとその場に腰を下ろしたまま。
田中はめげずに説得を試みた。
「重ね重ね申し訳ないのですが、他の場所へ......」
「うるせぇな。若造が俺に口出ししてんじゃねぇぞ」
運悪く木間瑞さんの逆鱗に触れてしまった。
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