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 次の日の夜、田中は再び街へと繰り出す。 すると、喜び勇んだ様子の佳奈が彼のもとへ駆けてきた。 「田中さん! 凄いです!  今日は私の周りにいる人が皆、冷ややかじゃなく、穏やかになるんです!  ストリート宇宙飛行士の方も、  昨日とは打って変わって温かい目で見られていました。  どうしてこうも急に?」 田中は予想通りと言わんばかりににやついている。 「佳奈ちゃんは今日、めでたく結婚したんだよね。  お相手の名字は確か......尾田谷。  佳奈ちゃんが向こうの名字に合わせたのなら、そういうことだよ」 「え、どういうことですか? ......あ!」 なるほど。尾田谷(おだや) 佳奈(かな)。 何という単純なカラクリであろうか。 空気人類はどうも名前で性質が決められているらしい。 しかし、ここで一つの疑問が生じる。 田中のフルネームは、田中一正。全く空気に関する名前ではない。 これは、簡単には紐解けない謎が隠されているようだ。 「これで今日から頑張れます! 本当にありがとうございました!」 「いやいや、俺は何もしていないよ。じゃ、しっかりね」 二人はそれぞれの持ち場へ別れた。  田中が担当区域の見回りをしていると、 二人の少年が気まずい雰囲気でそっぽを向き、 距離を置いて佇んでいる状況に遭遇した。 おおよそ喧嘩直後なのであろう。 まさか......。田中の嫌な予感は的中していた。 空気界隈の厄介者 木間瑞(きまずい)さんが、そこに居座っていたのだ。 彼は人並み外れた頑固者で、基本的に他人の意見には耳を貸さない。 年齢は55歳と、田中よりかなり上のベテランではある。 だが、気まずい少年たちを見ると、田中はいたたまれなくなった。 「木間瑞さん、こんばんは。  どうかそこをちょっとだけ避けていただけませんかね?」 木間瑞さんは田中の呼びかけに全く応じず、 かつての扇風機のようにどっしりとその場に腰を下ろしたまま。  田中はめげずに説得を試みた。 「重ね重ね申し訳ないのですが、他の場所へ......」 「うるせぇな。若造が俺に口出ししてんじゃねぇぞ」 運悪く木間瑞さんの逆鱗に触れてしまった。
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