1/1
前へ
/8ページ
次へ

 「俺がどいたところでどうするつもりだ? 考えはあるのかい?」 木間瑞さんは田中を着実に怯ませようとしている。 田中は言葉に詰まった。  「あれ、田中さんどうかしたんですか?」 思ってもいない助け舟がやってきた。尾田谷佳奈の登場だ。 休憩がてら田中に会いに来たものと見える。 「丁度良かった! 佳奈ちゃんにここを任せてもいいかい?」 「え、まぁいいですけど......」 「それはありがたい。よろしく頼むよ」 代役は見つかった。 「おいおい、そこで勝手に話を進めてもらっちゃ困る」 木間瑞さんはまだ納得がいっていない表情だ。 「ただで退くわけがなかろう。  田中とか言ったなお前、向こうに電機屋が見えるか?」 200m離れた辺りに大型電気店が構えてある。 「あそこに置かれている巨大扇風機を潜り抜けてみろ。  そうしたら快く目の前から消えてやる」 その扇風機の大きさは、例えるのならば”国会議事堂”であろうか。 田中の家にある物とは比べるまでもない。 前回は首の皮一枚で切り抜けた彼も、流石に恐れをなしている。 「田中さん、無茶ですって! やめましょうよ」 佳奈もこれは危険だと田中へ必死に忠告をした。 しかし、田中は言う。 「確かにこの挑戦は無謀さ。でも、あの少年たちが可哀想だろ。  彼らには早く仲直りして明日を迎えてほしいからな」 イカした男である。惚れてしまう。 「よし、行ってくる」 「決して無理はしないでくださいね、田中さん!」 彼は佳奈の声援を背に、強大な敵へ立ち向かっていった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

67人が本棚に入れています
本棚に追加