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ズババババ ズババババ ズババババ ズババババ
恐ろしい回転音である。
間近で暴れる強敵は、
てんで敵いそうにない限りなく大きな存在に見えてしまう。
田中は呼吸を整え、突入の好機を窺った。
今だ!
「..............................」
痛すぎて声が出ないのか?
「イダァァァァァァァァァァ!!!!!」
いつも通りで安心した。
「くっ、死ぬほど痛ぇな。でもな、諦めちゃいない」
熱い。
「応援してくれる佳奈ちゃん、気まずくなってしまった少年たち、
そして志織とお腹の中の赤ん坊のためにも、
俺は......ここで死ぬわけにはいかねぇんだよ!」
志織の妊娠を田中が知ったのは、つい今朝のこと。
昨日の夕方の段階で志織は彼に伝えようと思っていたが、
間に合わなかったのである。
生まれてくるこどもは、十中八九で空気人類の後継者となるだろう。
「今退いてしまえば、生まれてくる赤ん坊に合わせる顔がねぇ。
もし死ぬなら死ぬで、父として相応しい背中を見せてからじゃないと」
この瞬間、田中は自分の身体が見る見るうちに大きくなる様を肌で感じた。
これは......空気の膨張!
彼の身体中に漲る熱気が為した業であろう。
「神は俺にまだ死ぬなと言っているのか?」
やがて田中の全身は扇風機内の空間に収まりきらなくなり、
扇風機の一端にひびが。
「ならば、その使命、謹んでお受け致しましょう。うぉ―――――!!!」
巨大扇風機、全壊。
「な、何だと!? 馬鹿な。あんなデカさの扇風機が粉々に?
あいつは怪物だ。ここは逃げるに限る!」
木間瑞さんは一目散に逃げ出し、遥か遠くへ消えていった。
「田中さん、凄い! やっぱり最高の先輩です!」
佳奈はとてつもない喜びようだ。
「考えてみたら、俺が悪かった、ごめん......」
「いや、俺の方こそごめん。言い過ぎたよ」
少年たちも無事元通りの仲に戻れたようだ。
「一件落着ってか。ハハハハハ」
空が明るみを帯び始めた。日の出の時間だ。
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