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「しかしよくもこんなに薄く切れるものだね。板前さんの腕が良いんだね」
「本当ですよね」
いや、町内会長の息子さん、腕は確かだ。反社会的勢力の構成員だなんて思ってしまって申し訳ない。
「お待たせしました。てっちりでございます」
「てっちり?」
店員さんが熱々の鍋をテーブルに置いた。出汁のいい匂いがする。
「てっちりは河豚の鍋物の事でございます。白身魚は煮るとチリチリに縮んでしまうので白身魚を使った鍋物の事をちり鍋と言うのですよ」
店員がお皿を配りながら説明してくれた。
「ふ〜ん、チリチリね。おもしろ〜い。でも"てっ"って何? "てっ"って。"てっ"って河豚の事?」
美代子の言葉を聞いて店員さんは笑いをこらえながら説明してくれた。
「河豚は毒があるので当ると死んでしまいます。なので昔の人は当ると死ぬ事から河豚の事を"鉄砲"と呼びました。鉄砲のちり鍋なのでてっちり鍋です」
「へ〜、鉄砲ね、鉄砲……、鉄砲!」
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