第一話 新しい体

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 銭湯から出ると、宵の明星が瞬いていた。  ぶかぶかのジャージ姿で街を歩く。火照った頰に風を受けるのが心地よかった。病院はこの橋の先だ。  ふと、足を止める。  川の名前を記した看板があった。それを見て気付く。この川は、実家の近くを流れる川と同じものだったんだ。 「七姫(ななひめ)市ってこの先にあるんだ……」  上流を見据える。  僕の暮す市とこの街には、同じ川が流れていた。僕にはそれが不思議だった。まるで、遠い外国にいるような気がしてたのに。  欄干に寄りかかり、スマホを取り出す。旅行中、家族で撮った写真が壁紙に設定されている。両親と、小学生の弟と、男の子の姿の僕。四人家族だ。  手首に巻いてある桃色のシュシュが目に入った。治験後の暮しを思い浮べる。僕は思った。  弟に「お姉ちゃん」って呼ばれるのかな。  もう「床屋に行け」って言われないのかな。  可愛い服を着ても受け入れてくれるのかな。  長い髪が夜風になびく。街の明りが水面(みなも)に映り、揺らいでいた。
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