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僕と彼女のベッドは向い合せに置いてある。間仕切を開ければお互いの姿がよく見えた。身体測定から戻ってきた彼女は、ふわふわした髪を後ろで一つに束ねている。
「他にも被験者がいたんだね」
僕の言葉に、病院食を食べていた彼女の手が止る。首にはさっきのヘッドホンを掛けている。
「知らなかったの? 全部で三人いるってうかがったよ」
「じゃあ、あと一人いるんだ」
癖っ毛の彼女はこくりと頷くと、のんびりとお粥を掬って口に運んだ。特別にゆっくりというわけではないけど、丼御飯を十杯、寝起に搔き込んだ僕とは大違いだ。
僕は訊ねた。
「君はどうしてここに来たの? 答えたくなかったら無視してもいいけど」
「貼紙があったの。職員室前の廊下に。『性別に悩んでいるあなたへ』って書いてあって、そこに連絡したら、新宮先生だった」
「僕も。学校の玄関で見たよ」
癖っ毛の彼女はきょとんとして、それからいらずらっぽく笑った。
「きみ、そんな可愛い見た目なのに『僕』って言っちゃうんだね」
僕は釣られて笑った。
「『私』に変えようかなって思ったんだけど、恥しくて。変かな」
「ううん。きみらしくて素敵だよ。可愛い」
まっすぐな眼差で言われて、くすぐったくなる。
「えへへ、ありがとう」
「きみは家族に反対されなかったの? 治験を受けるって言って」
僕は首を横に振った。
「親にも先生にも内緒。契約書はおばあちゃんに書いてもらった。おばあちゃん以外はみんな、勉強強化合宿に行ってると思ってるよ」
「あはは」
朝食を済ませると、彼女は丁寧に手を合せた。
「ご馳走様でした。美味しかったです」と言って、看護師にお盆を渡す。その横顔を見て、僕は声をかけた。
「そのシュシュって」
彼女は、桃色のシュシュを付けていたのだ。
「あ、これ。もう一人の被験者の人に貰ったの」
「わたしのこと、呼んだ?」
看護師と入れ違いに、Tシャツ姿の女の子が顔を覗かせる。長い髪を後ろで二つに結いている。レストランで出会ったあの女の子だった。僕は身を乗り出した。
「君も男の子だったの!?」
彼女は小さく頷くと、照れ隠しに笑った。
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