第一話 新しい体

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「二つ目が、体の性別。あなたに関りがあるのはこちらです」  新宮医師は天井から何かを引き出した。ベッドの正面に現れたのは、白い幕だった。僕の頭上にリモコンを向けると、幕に数枚の絵が映し出された。 「実は、性染色体が男性でも、女性の体で生れてくる人がいるんです。『性分化疾患』と呼ばれるものの一つですね」  僕は身を乗り出した。  絵は横二列に並んでいる。お腹の中の赤ちゃんを描いたもので、右へ進むほど体が大きくなっている。よく見ると、上の段は女の子、下の段は男の子だった。 「赤ちゃんの体は、初めは女の子と男の子で差がありません。だけど、ある時に男性ホルモンを浴びることで、男の子は男の子の体になるんです。私たちはこの仕組を利用して、わざと性分化疾患を起すことにしました」  彼女は指棒で右端の男の赤ちゃんを示した。 「まず、あなたの体を特殊な薬で若返らせます。お母さんのお腹にいた頃の、小さな小さな体までね」  指棒が左端の赤ちゃんへ近づく。 「その後、成長促進剤で一気に元の年齢に戻します。男性ホルモンを浴びなければ、女性に近い体のまま成長できるはず。あくまで女性のような体ですから、大人になっても妊娠はできませんけどね」  指棒はUターンして、右端の女の赤ちゃんに辿り着いた。  僕はぴとりと自分の首を触ってみた。太い首だった。唾を飲むと喉仏が動いて、指の骨に当った。体の中に別の生き物がいるみたいで、気持悪かった。  絵が消え、幕が上がる。向いのベッドでは誰かが寝ているらしかった。だけど、カーテンで仕切られていて中は見えなかった。 「三つ目が、心の性別。『僕は男だ』とか『私は女だ』とか『どちらでもない』とか『両方』とか、自分はどの性別か、体の性別に関りなく感じていることです」  彼女は続けた。 「四つ目が、性指向。易しく言うと、誰に恋をしうるか。あなた、さっき『僕が男の人を好きになるだなんて』って言いましたよね。あれのことです」  指棒の両端を摘む。棒はしゅるりと縮んで、白衣のポケットに収まるほどになった。 「心の性別も性指向も、お母さんのお腹の中で脳ができる時、ホルモンによって決まると考えられています。ですが、この治験では脳はほとんどいじりません。記憶を保つためです。ですから、心の性別と性指向も変りません」  耳にかからない短い髪を、骨張った手で触った。頭がじいんと熱くなったような気がした。  僕が本当に女の子になるの? 今から?  夢のようだけど、現実だ。修学旅行の前の夜みたいに、胸の中で期待と不安がぐるぐる動いた。 「五つ目が――」
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