第一話 新しい体

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 おろおろする看護師をよそに、僕はご飯を搔き込んだ。空っぽの丼を突き出す。 「おかわり下さい!」 「もう十杯目ですよ!?」  一人が注文へ急ぎ、一人がタブレットに食べた量を打ち込む。僕はぱちぱちと瞬きをして、周りを眺めた。  ここは病院に併設されたレストランだ。食器同士のぶつかり合う音が厨房から微かに聴こえる。休憩中の職員や症状の軽い患者が昼食をとっていた。  外の公園で木々が青い葉を茂らせている。風の吹く度、木漏日が地面で揺らいだ。 「唐揚、お好きなんですか」  こくりと頷く僕。 「いつまで食べますか」  唐揚を運ぶ箸を止めて、新宮医師に答えた。 「これでおしまいにします」  彼女が一つ頷く。 「では、私たちは他の患者さんを診なければなりませんから。食べ終ったらさっきの病室に戻ってきて下さいね」  僕は一人で黙々と食べ続けた。  ご飯を口へ運ぶ度に、髪がはらはらと零れて汁物に触れそうになる。僕はその都度、慣れない手付で髪を耳にかけ直した。病室を出る時、床に付かない程度には切ってもらったんだけど。  可愛らしい声が聴こえたのは、その時だ。 「髪、邪魔じゃない?」  顔を上げると、向いの席に女の子が着いていた。僕は箸を落としそうになった。 「ごめんね。びっくりさせちゃった?」  眉尻を下げて、胸の前で細い手を合せる。僕はナプキンで口を拭き、かぶりを振った。 「そんなことないよ」  僕と同じくらいの歳に見えた。彼女はくりくりした目を細めて「えへへ」と笑った。 「一つあげるよ」  両耳の下で結んだ髪をふわりと揺らし、患者衣のポケットをまさぐる。覗いたのは、彼女がつけているのと同じ桃色のシュシュだった。 「いいの?」  頷く彼女。  僕の手の平にシュシュがころんと着地する。僕はそれを胸に抱き、微笑んだ。 「ありがとう。嬉しい」  シュシュを一旦テーブルに置き、首の後ろでもたもたと束ねる。だけど、指の隙間から髪が逃げてしまう。彼女は苦笑した。 「初めてだもんね」  素早く僕の後ろに廻り込む。「失礼するね」と言って、長い長い髪を手際よくまとめてゆく。僕は思った。  君はどうして病院にいるの?  怪我にも病気にも見えないけど。 「これでよし」  彼女は腰に両手を当て、うんうんと頷いた。 「また会おうね」 「えっ? うん。またね……」  僕は小首を傾げつつ手を振り返した。遠のいてゆく彼女の髪は、今の僕と同じくらい長かった。
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