『月飼い』の夜のたびに

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 『月飼い』の夜のたびに  目覚めると、さっきまで直ぐ隣で微かな寝息を立てていた彼女は消えていた。 窓辺の金魚鉢が陽の光を受けて眩しさを撒き散らしている。 金魚は一匹もいない。 空っぽの金魚鉢には、透明の水道水がみっちり張られているだけだ。  ボクの彼女は、月の出ている夜は決まって金魚鉢に水を張りカーテンを開けて窓辺に置く。 彼女のお気に入りの曲の歌詞に水槽で月を飼うといったフレーズがあって、彼女はそれを真似て金魚鉢をあちこち移動させては月が水面に映り込むと幼い少女のように燥いだ。 夜の風景には余りにも不似合いで儚い、といつも思う。 けど、本当は不安なんだ。 歌詞の続きに描かれている彼女は、朝を待たずに水面に捕まえた月と彼を残して居なくなる。 幻想的で美しいその歌詞の中で、この男女が最後どうなったのかはボクには分からない。 きっと、それぞれの結末を想像出来る形で終えているんだと、ボクは勝手に思っている。 そのボクの勝手な結末は、いつだってひどく不安定で心許ない。 ボクの彼女は、凄く可愛い。 無邪気で元気で、どこかフワフワしている。 それが良くもあり悪くもあり。 心地のいいフワフワ感は、捕まえて置きたいのに軽過ぎて、文字通りフワフワと飛び立っていつの間にか手の届かない高い空中へ舞い上がって行ってしまいそうで…。 あの歌詞のように、急に消えて行ってしまいそうで。 そうやって金魚鉢が窓辺にある朝は、少し不安で憂鬱だ。 休日の朝、極上の日和、悲壮感を携えて微睡むボク、この対極を憂い再び薄い毛布に包まった。 刹那、勢いよく玄関の扉が開く。 「丈瑠、朝ごはんの調達出来たよ。公園で一緒に食べよう!」 ボクは毛布を跳ね除けた。              ー 了 ー 「月飼い」 ポルノグラフィティ 引用
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