1人が本棚に入れています
本棚に追加
観覧車の扉が閉まり、裕樹と二人きりになった。
「あれ、あいつら何やってんだよ」
緊張して、心臓がバクバクする。
最初は戸惑い、ふざけていた裕樹も、私の顔を見て何かを察したのか黙ってしまった。早く、早く話さなきゃ。
言うべきことはわかっているのに、言葉が出てこなかった。観覧車ががたりと揺れる。頂上に着いたのだ。
これで終わっていいの?
唇をぎゅっと噛みしめて、私は勇気を振り絞った。
「好き」
裕樹は何のことかわかっていないようだった。聞こえてもいなかったのかもしれない。
「好きなの私。裕樹のことが」
だから私はもう一度言った。すると今度はするりと言葉が出てきてくれた。
そうなればもうあとは止まらなかった。
「裕樹のことがずっと好きだった。あの子じゃイヤ。お願い、私と付き合って。
ずっと一緒にいたのは私じゃない。私といたらラクだって、前裕樹言ってたでしょ。私、これからもずっと裕樹と一緒にいたいの」
裕樹は頭を掻きながら泣きそうな顔で私を見ていた。
「えっと、本気で言ってんだよな」
私はあまりのことに息を飲んだ。それを見て裕樹は慌てて言葉を続けた。
「ごめん、冗談じゃないってわかってる。お前がそんなこと冗談で言う訳ないってことも」
「だけどごめんな」裕樹は静かに言った。
「お前のこと、友だちとしか見れない」
それがすべてだった。わかっていたことだった。それなのに、溢れる涙を止められない。涙でにじむ視界の向こうで、おろおろと裕樹が戸惑っているのがわかる。
こんなことがしたかったわけじゃない。笑え、私。笑えよ。
私は零れる涙を手で必死になって拭うけど、涙は次から次へと出て止まらなかった。
そのとき、きらりと温かい光が目に入った。何だろう。ふと横を見て、私はそれに見惚れ、一瞬、涙も裕樹のことも、何もかも忘れた。
私はこのときの景色を忘れないだろう。
私の恋の終わりを告げるその夕日は、山に隠れるその間際、すべての力を出し切るように紅く辺りを照らしていた。その光は残酷で、だけどとても綺麗だった。
私の視線に気づいた裕樹も夕日に見惚れていたみたい。
「綺麗だね」
「あぁ、綺麗だ」
そういったきり私たちは無言のまま夕日を眺めていた。
観覧車もあと残りわずか。下には心配そうにこちらを見つめる大吾とあの子がいた。最後にわがまま、言ってごめんね。
最初のコメントを投稿しよう!