1人が本棚に入れています
本棚に追加
私が好きな人
「やっぱり、お前といるとラクでいーわ」
そう言ってへにゃっと気の抜けた顔で笑うのは小野田裕樹。同じクラスで、私の幼馴染。
「バカ言ってないでさっさとデートの一つでも誘いなよ、まったくヘタレなんだから」
そして私の好きな人。
「そうは言ってもなぁ」裕樹は頭を掻きながら言う。これは裕樹が気まずいときの癖だ。
私はいつまでこんなことを続けるんだろうと時々思う。
「女子相手だと緊張すんだ」
こいつはいつまでも私のことなんて見てくれないし、私の気持ちなんてこれっぽっちも興味がない。
「だからさ、その……楓ちゃんだっけ? 好きなこととか知らないの? そこからお近づきになればいいじゃない」
本当はそんなこと望んでなんかないくせに。私は私の口が勝手に無難なことを話すのを、他人事のように聞いていた。
「そんなこと聞ければ苦労しねぇよ~」
裕樹は呆れたように言った。
そりゃそうだ。私だってそんな風に言われたらそう思う。
「は~、どうしようかなぁ」裕樹が大きなため息をついて俯いている。そのうなじを見ていると心がぐらつくのがわかる。仕方ないな。私は意識をちょっと自分に取り戻して考えてみた。
最初のコメントを投稿しよう!