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1.それは婚約破棄から始まった
「今、なんと仰いました?」
クレヴィング公爵家の令嬢、アマーリアは大きく目をみはって婚約者である王太子アドリアンに問い返した。
「だから今言った通りだ。私はそなたとの婚約を本日をもって解消する!」
広間にざわめきが広がった。
場所は王宮の西側にある琥珀宮。非公式のパーティーや若い貴族たちの社交の場として主に使われているそこでは、今夜はバランド公爵家の子息クレイグとエイベル公爵家の令嬢アンジェリカ嬢との婚約披露のパーティーが華々しく開かれていた……のだったが。
出席者たちの視線は今は主役の二人を通り越して、突然、高らかに婚約破棄をつきつけたアドリアンと、突き付けられた側のアマーリアに集中していた。
アマーリアは、信じられないといったようにゆっくりと首を振った。
「月の光を集めたようだ」と称えられる淡い金色の髪がふわりと揺れて頬にかかる。
「理由はそなたが一番よく知っているだろう。自分がマリエッタにしたことをよく思い出してみるがいい」
そう言って振り返ったアドリアンの視線の先には、栗色の髪をした小柄な令嬢がおどおどと、今にも泣きだしそうな顔で立っている。
「殿下……私なら良いのです。こんな場所で、やめて差し上げて」
「君は黙っていろ。ここは私が話をつける」
マリエッタと呼ばれた令嬢に優しく微笑みかけたアドリアンは、アマーリアに向き直ると一転して憎々しげに彼女を睨みつけた。
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