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「そなたがマリエッタに対して行った嫌がらせ……と呼ぶにはあまりにも悪質な悪行の数々についてはすべて報告を受けている。それでも、最初は私のことを想うゆえの嫉妬がさせたことと大目に見ようとしてきたが、先日そなたがマリエッタに対して投げかけた言葉を聞いて我慢の限界を超えた! もう金輪際……」
広間じゅうの人々がいっせいに息をのんだ。
当のアマーリア嬢が両手で口をおさえ、その場に屈みこんだからだ
肩が小刻みに震えている。
泣いている、と誰もが思った。
ほっそりとして華奢なその姿は痛々しく、見ている者は誰もが同情した。
ただ一人、アドリアン王太子を除いては。
アドリアンは勝ち誇ったようにアマーリアに指をつきつけた。
「泣いても無駄だ! おまえのような悪女にかける情けはすでに尽きた。本来ならば公に罪に問うても良いところを公爵令嬢だというそなたの立場を慮って、こうして内々に婚約を破棄するにとどめた私の恩情に感謝……」
「……いたします」
「ん、何だ?」
「感謝いたしますわ!」
アマーリアがぱっと顔を上げて立ち上がった。
泣いているとばかり思われたその顔は、これ以上ないほどの笑顔だった。
「殿下。今仰られたことは本当ですのね。私たちの婚約は破棄だと」
「あ、ああ」
「本当ですわね? 王太子殿下ともあろう御方に二言はありませんわねっ」
きらきらと輝いた目で詰め寄られ、たじろぐアドリアン。
だが、呆気にとられている周囲の目。
すがりつくようなマリエッタ嬢の視線にぶつかった瞬間、我に返った。
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