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「嘘なんかじゃないわ。私は本当にあの方──ラルフ・クルーガーさまをお慕いしているの」
「…………」
しばらくの沈黙のあと、アンジェリカとミレディは同時に
「えええええっ!?」
と叫び声をあげた。
「う、嘘じゃないって……お慕いしてるって……それ、だってあなたはアドリアン殿下の婚約者で、未来の王太子妃じゃないの。どうするのよ!!」
「あら。それは先ほど殿下の方から解消して下さったじゃないの」
アマーリアはにっこりと笑って紅茶のカップを口に運んだ。
「そうでなければ、いくら私でもとてもあの場であんな勇気は出せなかったわ。本当に殿下にはいくら御礼を申し上げても足りないわ」
「御礼って……あなた殿下から言われたあの酷い言葉を忘れたの? マリエッタ嬢を苛めただとか根も葉もない」
「マリエッタ嬢? それはどなた?」
アンジェリカとミレディは顔を見合わせ、それからがっくりと首を垂れた。
「……聞いてなかったのね」
「そうね。リアはそういう子よね」
アマーリアの、集中力があるといえば聞こえはいいが何かに気をとられると、それ以外のことに対する注意がすっぽりと抜け落ちてしまう癖は、二人は幼い頃から嫌というほど知っていた。
「そ、それじゃあ、あなたがあのクルーガーさまを好きだっていうのは本当のことなのね?」
アンジェリカが気を取り直すように、紅茶を一口飲んでから言った。
「ええ、もちろんよ」
「お慕いしていたっていつから? 私たちまったく何も聞いてないわよ」
「だってあの方と出逢った時、私は王太子殿下の婚約者で、いずれは殿下のお妃になることが決められていて……だからこの想いは誰にも言わないまま、忘れるしかないと思っていたの」
そう言ってアマーリアは両手を組み合わせると、潤んだ瞳を夢見るように遠くへ向けた。
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