130人が本棚に入れています
本棚に追加
/62ページ
17.騎士ラルフ・クルーガーの生い立ち
そして公爵家での顔合わせの日がやって来た。
当日の朝、騎士団の宿舎を出たラルフが実家へ行くと、父もすでに身支度を済ませて待っていた。
父の隣りには相変わらず不機嫌を隠そうともしない顔のエリザベートが立っている。
先ほどまでさんざん苦情を言われていたのか、父はぐったりと疲れた顔をしていた。
エリザベートはそれでも言い足りないのか、馬車寄せのところにまでついて来て、馬車に乗り込む父の背中に向かって、
「大切なご令嬢のお心を誑かし、王太子殿下とのご婚約を駄目にされたことでクレヴィング公爵はさぞやお怒りのことでしょうね。厳罰が下されるのは避けられないとしても、くれぐれもそれが当家にまで及ぶようなことがないようにお願いいたしますよ。この度のことはすべてラルフさま個人がなさったことで、私やレイフォードには何の関わりもないのですから!」
と叫びたてた。
「……すまぬな」
馬車が走り出すと父が詫びた。
「あれも悪い人間ではないのだが」
「分かっていますよ。義母上は父上やクルーガーの家のことを大切に想って下さっているのです。この度のことで驚かれ、お心を痛められるのも無理なきことかと」
正しくは、エリザベートが大切に想っているのは自分の産んだレイフォードだけだろうが、それは口にしないでおく。
「すまぬ」
父がもう一度詫びた。
気の優しいこの父に、二人きりでいる時にこうして詫びてくれる以上のことを期待しても無駄なことをラルフは少年の頃からよく知っていた。
最初のコメントを投稿しよう!