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──王都セントラル 中央公園
セントラルはその名の通り、大陸のちょうど中心部に位置する巨大な都市である。
交易が栄えており、観光客も多い。
ここを拠点として生活する冒険者も多く、他の都市と比べても治安は良いと言えた。
レンガで舗装され、雑草の一つも生えていない道をルーカスは歩く。
ここは公園と言うよりも広場に近く、通行人をターゲットとした軽食の出店がいくつも立ち並ぶ。
中央にある大きな噴水は観光スポットとして有名で、その周囲に置かれた木製の長ベンチに座って休憩する者も多い。
噴水を見ながら歩いていると、ベンチに座るニーナを見つけた。
落ち込んでいるように見える。
(朝の話し合いでも、消極的だったな……)
ルーカスはニーナに声をかけた。
「やあ、ニーナ」
「……ルーカスさん」
隣に座る。
「ニーナは……朝の話、反対かい?」
「……反対では無いです。何というか、その……」
「うん」
「……不安なんです。私、私は……回復魔法しか、できません。いつも皆さんに守ってもらってばかりで……」
「……」
回復術士。
それは光の魔法で味方の傷を癒やし、戦線を支える大事な戦力となる。
パーティー内に一人いれば長旅の安定感は増す、が……一方で、傷を癒やすだけなら市販の回復薬でも事足りてしまう。
冒険者の間では、やや不遇な職業という認識だ。
だが、前世……現代日本で暮らしていた時の記憶を有するルーカスにとっては、支援職の大切さを嫌というほど理解していた。
セーブもロードも無く、傷を受ければ動きが鈍り、死ねば死ぬ現実世界において、即死以外なら回復できる支援職がどれほど大切か。
「ニーナの回復魔法の凄さは俺が保証するよ。実際、君がいなければ俺はもうとっくに死んでた」
「そ、そんなこと! ……でも、私の能力を買ってくれているなら、それなら……解散なんて言わないでください……」
「……」
今にして思うと、配慮が足りなかった。
回復術士は、個人での戦闘能力は皆無と言っていい。
彼女に一人旅をしろというのは酷な提案だったのだ。
「……ごめん」
「……理解はしているんです。今の生活が続けば、回復魔法を使う必要が無いくらい、皆さんが強くなって……私はただのポーション以下になってしまうことぐらい」
そんなことは、と言いかけると同時に、その未来もあり得るかもしれないとも思う。
「だから……初心を見直す、というのは賛成です。そう分かっていても、いきなり一人になるのは……怖い、です」
「そう、だよね」
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