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理屈では分かっていても納得できない事はある。
彼女に足りないのは、環境を変えることへの小さな一歩だ。
「だったら、そうだ。護衛を雇うというのはどうだろう」
「護衛、ですか?」
「ギルドに依頼して、冒険者をお金で雇うんだ。必ずしも一人で旅をする必要は無いからね」
ルーカスは、自分が酷く無責任なことを言っているように思えた。
けれども、破滅の未来を変えるために仲間を説得することを迷いはしなかった。
「そう……ですね。盲点でした。うん、それなら……頑張れるかもしれません」
「色んな人と旅をして、色んな場所を訪れることは、ニーナにとって良い経験になると思うよ」
その言葉にニーナは少しだけ驚いてから、くすりと笑う。
「なんだか、変わりましたね。ルーカスさん」
「えっ?」
「以前のあなたなら、きっと……“俺が君を守るから、君は何も心配しないで!” なんて言ってたと思いますよ」
そうだろうか? と、ルーカスは以前の自分、自己を思い出そうとして、忘れた。
もしかするとそれが、現代日本から転生し、ルーカスの身体に憑依した魂が元のルーカスと混ざり合ってきている証拠だったのかもしれない。
「……あなたの言葉で、目が覚めました。私はもう、守られるだけの道具でいたくない。ルーカスさんを守れるように、強くなります」
「……そっか。うん。ありがとう」
「ふー、悩んだらお腹が空きました。何か食べませんか?」
「いいね」
ニーナの悩みを解消したことで、彼らの絆はより深まった。
出店で軽く食事をしてからニーナとは別れ、ルーカスは再び散歩へと戻る。
そして、翌日。
宿屋ルイン・セントラの食堂で、ルーカスは話を切り出した。
「集まったね。それじゃあ、皆の意見を聞かせてほしい。パーティーを解散して1年後に再び集まる……異論はあるかな?」
「無いわよ」
「右に同じく」
「私も、ありません」
「よし。それじゃあこの日、この時を持って俺たちは一時的にパーティーを解散する。みんな、それぞれで修行をして、旅をして……強くなろう。魔王を倒すために!」
その信念のこもった言葉に、仲間たちは強く頷く。
「解散!」
仲間たちはその言葉とともに席を立つ。
それはまるでいつもの休日のように、各々が好き勝手の方向に歩き出した。
これが今生の別れでないと分かっているからこその、信頼関係。言葉がなくても伝わっている。
1年後にまた、会える。
ルーカスは一抹の寂しさと共に部屋へ戻り、身支度を始めた。
この4人部屋も今日で最後だ。いいや、また、必ず4人でこの部屋に戻ってくる日を信じて。
ルーカスは戦う。
破滅の未来を変えるために。
借りている宿を引き払い、そして1年後にまた借りる旨を伝え、ルーカスは宿を後にする。
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