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以前のルーカスであれば少年を見捨てていただろう。しかし今のルーカスには、この少年を見捨てるという選択肢は無いに等しかった。
「君、名前は?」
「ら、ライリー……です」
泣き止んだ少年ライリーはルーカスの目を見ながら答えた。
ルーカスはライリーの頭を優しく撫でる。
「そうか、ライリー。とりあえずギルドに行って、保護してもらえるように掛け合ってみるよ。歩けるかい?」
「はい、大丈夫です」
来るときに乗ってきた馬車は壊れ、御者も馬も逃げてしまっている。
ウロの村へ向かう際に魔物に待ち伏せをされ、馬車ごと襲撃されたのだ。
待ち伏せをするほどの知能を持つ魔物は珍しく、ルーカス達もこれには驚いた。
魔物──今回はゴブリンの大群であった──は殆どの場合、本能だけで動き食欲を満たすためだけに人間を襲う。
そこには知能は無く、走って、攻撃し、食うというシンプルな行動だけしか見られない……はずだった。
ウロの村は焼け落ちていた。
盗賊などが行ったのであれば納得は行くが、ゴブリンが人家に火を付けたり待ち伏せをするというのは極めて異質であった。
ゴブリンとは、緑色の皮膚に小さな体躯の醜い魔物である。小鬼とも呼ばれる。
群れで行動する傾向があるが個々は弱いため冒険者の登竜門として知られている。
「俺たちだけじゃ人手が足りないな……ひとまずギルドまで戻ろう。馬車が無いから徒歩になるか」
「げ、アタシ疲れてるから歩くの嫌よ」
「なら野宿でもするか?」
「しないわよ!」
「あはは……まぁまぁ、バランさんもいじわる言わないで。アヴァちゃんも頑張って」
戦士バランは冗談めかしく言い、魔道士アヴァは愚痴をこぼし、回復術士ニーナは仲裁する。
そして勇者ルーカスはリーダーシップを発揮して皆を先導していた。
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