第1章 24話 舞踏会

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「あれ? ミズリー?」  視界に同じ騎士の制服を着た男が入ってきた。 「あ、マーク」  赤茶色の癖毛な若い男は、ミズリーの騎士学校からの同期であり、ジェームズの友達でもある。 「ミズリーはアレン王子の警護で来てんのか? ……にしてはこんなところで……」 「あ、いや……もう仕事は終わってるんだけど、ちょっと野暮用で」 「ジェームズもなしに?」 「いや待て。なぜオフの時間までヤツありきで動かなきゃならない設定なのよ」 「逆だよ。ジェームズがいないんだ、と思って」 「ん?」  なぜかマークは視線をよそに飛ばして、鼻の頭をポリポリしている。 「それよりもマーク、良いところで出会った。ねえねえ、アレン様の婚約者候補の方ってどの方とかわかる?」 「……見かけによらずミーハーだよなミズリーって。あ、まさか、学生時代の無謀な夢諦めてねーの?」 「無謀ってちょっと、失礼だなー」  軽く睨んだのに、なぜか可哀想な子を見るような視線を返された。 「そうかそうか、あちこち不毛だな……。ま、そのほうがいいのかも」 「さっきからいったい何を言ってんの?」 「ああ、なんでもない。よし、じゃあ俺もさっき仕入れたばかりの情報教えてやるよ」  そう言ってなぜかマークまでミズリー側に回り、柱陰からフロアーを覗き込む体勢になった。完全なる怪しい盗み見状態である。 「名前までは覚えてないんだけどさ、どの人かまではチェックしたから」 「うん大丈夫、充分。私も名前聞いても覚えられないし」  前世の学生時代、世界史の人名を覚えるのがめっぽう弱かった倉本瑞希は、転生してもソレは健在だったのである。 「ほらまずあそこ、アレン王子の正面陣取ってる緑のドレスの人ね。どこぞの侯爵家の娘」 「ほうほう」  背が高く赤毛に近いゆるふわヘアーの緑の貴婦人は、積極的に王子に話しかけている。割りと珍しい。ひょっとしたらミズリーと同じ行動派なのかもしれない。  現に、王子の真横で大人しく緑の貴婦人の話を聞いているユリーシア様のような状態の貴婦人が周囲にいる中、ひとり口を開いているように見える。 「あと、滞在中のユリーシア様は知ってんだよな?」 「うん」 「あの方の王子挟んだ反対側にいる人ね」 「……性別男に見える、けど?」  アレン王子の左隣はユリーシア様だが、右側には黒いスーツの恰幅の良い男性だ。 「いやその後ろ。たぶん父親だろ、娘若そうだし」 「げっ! ゲキマブ!!」 「は?」  マークが眉をしかめてミズリーを覗き込む。 「あ、失礼。あまりにも美少女だったもんで……」  アレン王子の後方で控え目に所在なげに佇むのは、ブロンドヘアーに淡いピンクドレスのお人形さんのような少女であった。 「マジか……美少女に、緑の人はモデル系、ユリーシア様は清純派……よりどりみどりのハーレムじゃないか……」 「……お前って、思考がたまにオッサンだよな」  マークの呆れたような声がかかる。 「ねえ、確か王族は複婚が出来るのよね?」 「そうだな。まあ今の王様はお妃ひとりだけど、その前の代は3人いたらしい」 「……ちなみに、過去、伯爵家からお妃様が出たことってあったっけ?」 「うーん、どうだろなあ。俺にはまったく縁のない世界だからわかんないなあ」 「そうか……」 「……なんか、落ち込んでるとこ悪いんだけど、まだ候補者いるんだわ」 「え?」  マークはアレン王子を取り巻く輪の、さらに外の輪に指をさす。 「あの辺りも候補者らしいよ。でもまあ爵位や力関係で言ったら、さっきの三つ巴かな」  ミズリーは壁に手をついたまま、ヘナヘナズルズルとしゃがみこんだ。見事に脱力してしまった。 「大丈夫か?」 「……ダメかも」  自分がもしアレン王子の立場なら、悩むこともなくこの美しい女性達を囲うだろう。  政略結婚でしかないと言われる王族の婚姻。それでもやはり男なら美しいもの、強いもの、自分の為になるものすべて手にいれたくなるものだろう。  自分に、ないものばかりだ。
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