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「あれ? ミズリー?」
視界に同じ騎士の制服を着た男が入ってきた。
「あ、マーク」
赤茶色の癖毛な若い男は、ミズリーの騎士学校からの同期であり、ジェームズの友達でもある。
「ミズリーはアレン王子の警護で来てんのか? ……にしてはこんなところで……」
「あ、いや……もう仕事は終わってるんだけど、ちょっと野暮用で」
「ジェームズもなしに?」
「いや待て。なぜオフの時間までヤツありきで動かなきゃならない設定なのよ」
「逆だよ。ジェームズがいないんだ、と思って」
「ん?」
なぜかマークは視線をよそに飛ばして、鼻の頭をポリポリしている。
「それよりもマーク、良いところで出会った。ねえねえ、アレン様の婚約者候補の方ってどの方とかわかる?」
「……見かけによらずミーハーだよなミズリーって。あ、まさか、学生時代の無謀な夢諦めてねーの?」
「無謀ってちょっと、失礼だなー」
軽く睨んだのに、なぜか可哀想な子を見るような視線を返された。
「そうかそうか、あちこち不毛だな……。ま、そのほうがいいのかも」
「さっきからいったい何を言ってんの?」
「ああ、なんでもない。よし、じゃあ俺もさっき仕入れたばかりの情報教えてやるよ」
そう言ってなぜかマークまでミズリー側に回り、柱陰からフロアーを覗き込む体勢になった。完全なる怪しい盗み見状態である。
「名前までは覚えてないんだけどさ、どの人かまではチェックしたから」
「うん大丈夫、充分。私も名前聞いても覚えられないし」
前世の学生時代、世界史の人名を覚えるのがめっぽう弱かった倉本瑞希は、転生してもソレは健在だったのである。
「ほらまずあそこ、アレン王子の正面陣取ってる緑のドレスの人ね。どこぞの侯爵家の娘」
「ほうほう」
背が高く赤毛に近いゆるふわヘアーの緑の貴婦人は、積極的に王子に話しかけている。割りと珍しい。ひょっとしたらミズリーと同じ行動派なのかもしれない。
現に、王子の真横で大人しく緑の貴婦人の話を聞いているユリーシア様のような状態の貴婦人が周囲にいる中、ひとり口を開いているように見える。
「あと、滞在中のユリーシア様は知ってんだよな?」
「うん」
「あの方の王子挟んだ反対側にいる人ね」
「……性別男に見える、けど?」
アレン王子の左隣はユリーシア様だが、右側には黒いスーツの恰幅の良い男性だ。
「いやその後ろ。たぶん父親だろ、娘若そうだし」
「げっ! ゲキマブ!!」
「は?」
マークが眉をしかめてミズリーを覗き込む。
「あ、失礼。あまりにも美少女だったもんで……」
アレン王子の後方で控え目に所在なげに佇むのは、ブロンドヘアーに淡いピンクドレスのお人形さんのような少女であった。
「マジか……美少女に、緑の人はモデル系、ユリーシア様は清純派……よりどりみどりのハーレムじゃないか……」
「……お前って、思考がたまにオッサンだよな」
マークの呆れたような声がかかる。
「ねえ、確か王族は複婚が出来るのよね?」
「そうだな。まあ今の王様はお妃ひとりだけど、その前の代は3人いたらしい」
「……ちなみに、過去、伯爵家からお妃様が出たことってあったっけ?」
「うーん、どうだろなあ。俺にはまったく縁のない世界だからわかんないなあ」
「そうか……」
「……なんか、落ち込んでるとこ悪いんだけど、まだ候補者いるんだわ」
「え?」
マークはアレン王子を取り巻く輪の、さらに外の輪に指をさす。
「あの辺りも候補者らしいよ。でもまあ爵位や力関係で言ったら、さっきの三つ巴かな」
ミズリーは壁に手をついたまま、ヘナヘナズルズルとしゃがみこんだ。見事に脱力してしまった。
「大丈夫か?」
「……ダメかも」
自分がもしアレン王子の立場なら、悩むこともなくこの美しい女性達を囲うだろう。
政略結婚でしかないと言われる王族の婚姻。それでもやはり男なら美しいもの、強いもの、自分の為になるものすべて手にいれたくなるものだろう。
自分に、ないものばかりだ。
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