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「ミズリー、行くぞ」
「え?」
ズカズカと近付いてきたかと思うと、フリーだったほうの手首がジェームズに掴まれてしまった。
「じゃあ、王子、そういうことで、早く舞踏会に戻ってくださいよ。オレたちは休みなんで引き上げますが」
「ああ、そうだね」
アレン王子に繋がれていた手が離された。
そのまま、なんだかよくわからないまま官舎に戻ってしまった。
「ちょっとちょっとねえねえ!」
官舎に戻ってきてミズリーの部屋に帰ってきた、というよりもジェームズによって押し込められたミズリーは、扉前で仁王立ちしているジェームズの腕を揺すった。
「いいの? どこぞの令嬢やら侍女を狙ってあそこにいたんじゃないの?」
「そのつもりだけど、一旦お前を拾ったから戻してやったんだ感謝しろ」
「なに言ってんのっ。なぜ戻す! み、見たんでしょ? 私、ついにアレン様とき、き、キスしたのっ」
「おうおう見た見た。あんなところでまさか王子さんが自分の部下にちゅっちゅらしてるとはな」
「いやいや、そこは『お前ついにやったな』とか誉めるとこでしょが! 奇跡の大逆転起こしたんだよ? なんでかさっぱりわからないけども」
「王子にもやっぱり性欲があったんだな」
「いや違うっしょ。キスだけだし」
「いや、アレはほっといたら客室になだれ込むつもりだったな」
「うっそ、アレン様が? ないない、ジェームズじゃないんだから。てかむしろ万々歳じゃない。作戦成功してたんじゃないの? 知らぬ間に。なぜ邪魔した」
そこでジェームスはニヤリといつもの顔つきに戻った。
「そりゃお前……楽しいからに決まってるからだろ? トントン拍子に進んだら楽しみなくなるだろが」
「し、信じらんないっ! 裏切りやがったなっ」
「くははっ。よーし、いいこと気付いた。今度から邪魔のほうで楽しもうかな」
「やーめーてーっ!!」
ミズリーは両頬を挟んで嘆いた。
そんなミズリーを横目に部屋の奥の小さな陳列棚からワインの瓶を1本取り出したジェームスは、ドカリと自分の部屋のように椅子に身を投げ出した。
「ちょっとおー」
「眠気覚ましさせてくれよ。オレは今夜眠れぬ長い夜を迎えるんだからさ」
「はいはい、お盛んなことで」
なぜか物言いたげな表情を見せたジェームスは、それでもすぐにいつものニヤニヤした顔つきで瓶の詮を引っこ抜いた。
「んで、なんかあったのか会場で。王子が言ってただろ?」
「え? ああ、うん。ビックリしたんだけど、人生初のナンパされちゃってさ」
「ナンパ?」
「あ、異性に口説かれることね。それがまさかのアレン様の婚約者候補のお兄さんだったんだけど、そこを助けてもらったのよ」
「ふーん……。やっぱお前を野放ししとくのは失敗だったな」
「家畜のように言うなや。あ、てかマークにもおんなじような事言われたわ」
「マーク?」
「うん、あんまりウロウロするなっだって。隙があるとか言われたけど、この私のどこにそんな隙があんのよ」
「隙だらけだぞ?」
「はあ? じゃあなぜに今までナンパされずに生きてきたのよ私。騎士学校なんて男だらけだったのに。今現在も男ばっかの職場なのに」
「そりゃあ……」
「あ、ジェームズ。守護神て見える人?」
「……お前はいったい、何を言い出したんだ?」
明らかに怪しげなヤツを見る目を向けてくるが、かまうものか。
「マークが、『ミズリーには守護神がいるから誰も声がかけられないんだ』って言ってたの。ビックリした。そんなのみんな見えてんの? ねえ、ジェームズは神様見える?」
なぜかジェームズは頭を抱えている。そんなにおかしな事を聞いてるのか? じゃあやっぱ見えないものなのか? 守護神って。
「マークめ、いらんことを……」
「え? なに?」
「いやこっちの話」
あおるようにワインを飲み、ジェームズは深い溜息をついた。
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