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第1章 28話 ピンチ
舞踏会の翌日、ミズリーの周囲は騒がしかった。
本日も午前勤務の為、王太子部屋の前に立つ同僚と交代しようと早朝にジェームズと向かうと、「ミズリー、どうなったんだ? あの後っ! 会場が異様な空気になってたぞっ」と言われて血の気が失せた。
「えっ……い、異様って……?」
「そりゃお前、婚約者候補達と踊ってる最中に殿下がミズリーの所に行ったんだぞ? しかも俺たちの警護を片手で制止して、そのままお前と消えたんだから」
「うっ……」
文字通り受け取ると、確かに問題行動で噂の材料にもってこいな内容である。
実際、その連れ去られた先で、しっかりキスまでしている。キスはさすがに何か問われても、性教育の一環とは言えない。
すっかり浮かれてしまっていたが、ややこしい事に発展しかねない状況を作ってしまっていた。
さらに、そもそもなぜあの淡白そうなアレン王子が、火がついたかのようなあんなキスをしてきたのだろうかすらも、解析できてない。
まさかの恋? と思わせてくれるような手応えもシチュエーションも、まったく浮かばないのだから。
「そんでお前、どーなってんだ? 殿下と。なんかあったのか? 俺たちてっきり……」
「てっきり? てっきり何?」
急に口をふさいで顔を見合わせる同僚ふたりは、そのままなぜか、「なあ?」とミズリーの後方にいる男に声をかける。
振り返ると、大あくびをかましているジェームズがいるだけだった。
「え? なになに? ジェームズなんか知ってるの?」
「ふぁあー……徹夜はキツいなさすがによう」
「お盛んなことで……」
半目で睨んで言うと、同僚達のほうが慌てたように、
「じゃっ、後はっ、よろしくっ!」
と、ソソクサと言っても過言ではない様子で官舎に戻っていってしまった。
次に、ほどなくして現れたベルナルド様の発言。
「やあおはよう」
「おはようございます」
「ういーす」
王太子部屋の扉を開けようとしたが、なぜかニコニコしたまま立っている。
「……何かございましたか?」
「いえいえわたくしではなくて。昨夜は随分楽しいことがあったようじゃないですか」
当たり前のことだが、すでにベルナルド様の耳にも入っているらしい。
「いや、あの……ですね」
「いつぶりでしょうかね、兄に、あんなにこっぴどく怒られている殿下を見るのは」
「ええっ?!」
さっきの数倍血の気が失せてしまった。
「なっ……ななななな、なんと?」
「昨夜遅くに王に呼ばれたのでね、火急の事態が起きたのかと思ったら、どうやら舞踏会で殿下が令嬢達に失礼をしてしまったと」
「あ……ああああ」
こっちは極限にまで狼狽えてるというのに、とても楽しそうにしか見えないベルナルド様。
「しかも、どうやらミズリー殿をさらってしばらく姿を消してしまわれたとか。公爵、侯爵家の令嬢達を差し置いて」
「ひいっ」
耐えられず両頬をぐわしと自分の手で挟む。
「わたくしまで怒られてしまいました。なぜ大事な場面で殿下についていなかったのか、フォローするのがお前の仕事だろ、と」
「ううっ……」
「王の言う通りです。本当にわたくしとしたことが、そんなおもしろ……大事な場所になぜいなかったのか、悔やんでも悔やみきれません」
「……ベルナルド様、今なにか本音が紛れてませんでした?」
「で、何かありましたか?」
成熟した色気ムンムンな妙齢の男であるベルナルド様。昔はさぞかしおモテになったのだろうと、なんだったら奥さんいなきゃ現役バリバリに違いないダンディーな容姿、とは裏腹にひたすら好奇心の塊の子供のような瞳で見てくる。絶対楽しんでる。
「何も。ただ酔った方に絡まれてた所を、アレン様に助けていただいた、だけです」
「ほう? で?」
「で? ……て、なんですか」
「王子はその後、人気のない場所にミズリー連れ込んで、それはそれは貪るようにエロチューかましてましたよ」
「ちょっとおおおお! ジェームズ!!」
さっきまでひたすらアクビ三昧で大人しくしてたくせに、ダメな事サラッと暴露しやがったっ。
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