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「なんとっ。殿下がっ。ほおーー」
ベルナルドはキラッキラとした瞳でじいいとミズリーの唇を見つめる。
恥ずかしすぎてミズリーは手で覆った。
「あのウブで生真面目な殿下がついに……いやあ感慨深い」
感慨深いと言ってる割には表情はすごく軽い。どちらかというとニマニマ系である。
「ベルナルド様、前から言おうと思ってましたが、絶対アレン様で遊んできていらっしゃいますよね?」
「ふふふ」
否定をしやがらない。
「それよりもミズリー殿。まだまだあと一押し二押ししてくださいね」
「はい?」
「殿下からキスをしたからと言って、それで満足してはいけません。殿下を侮ってはなりませぬぞ」
「……やっぱり?」
「たぶん何かに迫られるように、衝動的な行為に及んだのでしょうが。それが何から来るものなのかピンときてないと思われます。燻るモノはあるけど、それはまだ芽生えには繋がってはないのでしょう」
さすが長年王子に仕えてきただけのことはあって、王子についての考察にはとても説得力がある。自分も近い感覚で、あのキスを捉えてはいた。
ベルナルドは続ける。
「昨夜の事があったので、王が殿下にだいぶ厳しく言ってましてね。ご招待したご令嬢方ひとりひとりと、密な時間を取ってお詫びをしろと」
「……密……」
「そして、これは本当に申し訳ないですが、ミズリー殿は護衛からしばらく、ほとぼりが冷めるまで外れていただかねばなりません」
「そんな……」
これはもしかして、もしかしなくても悪い方に風向きが向いてやしないか?
唯一、アレン王子に近づく時である護衛が出来ない……それは、一切会うことが叶わなくなるということ。
いや、遠くからぐらいは拝めるけれど、今までのような奇跡はおこらなくなる。
さらにその間、あのビジュアルも身分も強力な候補者達と触れ合う時間が増すのだ。コロッといかれたら、もうそれで終わりじゃないか。
「ミズリー殿」
黙りこくって陰気な顔をしてたのだろう、さすがにベルナルド様が心配げに顔を覗き込んできた。
「さきほども申しましたように、一押し二押し。めげずに継続することが勝負の采配を大きく変えるのです。諦めてはいけませんからね」
「……」
すぐに、「はい」とは言えなかった。
ベルナルド様が王太子の部屋に入っていくと、さきほどまで静かにしていたジェームズが声をかけてきた。
「……やめちまえば?」
「え?」
何のことを言われたのかとっさにはわからず、扉挟んだ向こう側に立つジェームズの横顔を見た。
「なんか言った?」
その横顔に問いかけるも、こっちを向いてくれない。
いつもあんなに私語が甚だしいヤツのくせに、この日は一言も喋らなかった。
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