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ジェームズは、そっぽ向いたまま、ポリポリと頬を掻いている。
「ねえ、友達じゃんか。決めちゃう前になんで相談してくんないのよ」
「……相談も何も、まあ、個人的な? 家庭の事情ってやつだしよ」
「家……」
そういえば、ジェームズから家の話なんて一度も聞いたことなかった。どっちかっていうと、そういう話を避けてたような気がしたから、こっちも触れないようにしてたのもあるけど。
だとしたら、これ以上突っ込むことはできない。
なんだか上手く逃げられた気がして唇を噛む。
ふとジェームズが振り向いて、それからジッと見つめてくる。
「まさか、寂しいとか?」
そう言っていつものように、それでも心なしか力のないニヤニヤ顔を見せてきた。
だから悔しくて。思わず頷いた。
「……」
ジェームズは何か言いかけて、口を閉じた。なぜか若干睨まれてる気がするのだが。
「ジェームズいなくなったら寂しい。ちょっと本気で、先輩がいないこの先のこと想像できない。だから辞めるの、やめて」
「……」
なぜだろう、決死の説得なのに、嘘偽りのない本音を語ってるのに、なぜ敵討ちに会ったかのように睨まれているのだろうか。
「お前こそ、どーするんだ」
「え?」
腕を組み、威圧的に今度は真っ正面から睨み直された。
「王子のことに決まってるだろ。お前は警護任務解かれて、近寄ることも出来なくなった。婚約者候補達は順当にそれぞれ王子との交流の場を与えられている。……玉の輿、諦めたのか? それとも……」
無意識に首を振って答えた。
「わからない……。どうしていいかわからない。それなのに、そんな私置いてくなんて、ひどい」
ジェームズは盛大に溜息をついた。
「どっちがひどいんだ、まったく」
「私のどこがひどいのよ」
「どこ? お前、そんな部分的だと思ってたのか? お前はまるごとひどいぞ」
「ちょっとおーーーー」
ズンズンとベッドに腰掛けたままのジェームズに近寄ると、突然立ち上がってきて思わずビビってしまった。
いきなり見上げる位置になったジェームズの顔を伺うと、なぜか笑っている。
「その調子だよ、お前は」
なぜか頭を撫でられ始めた。
「……な、なんだこれは……。バカにしてる?」
ムスッと見上げるが、ずっと見ていたのかバチッとココア色の瞳とぶつかった。
「……ミズリー」
「なに?」
「もしお前が、玉の輿を諦めてないっていうんなら……もう少し待ってろ」
「え?」
なぜだろう。真面目な顔のジェームズは、心臓に悪い。見慣れてないからか。不安になるのか。
「オレが、必ず戻ってきて、お前を玉の輿に乗せてやる」
「……ジェームズ……」
なぜだろう。涙が出そうになるのは。ジェームズがそんなに応援してくれていたとは思わなかった。感動だ。
頭を撫でていたジェームズの大きな手のひらが後頭部まで下がる。
ふと、ジェームズの瞳もゆるんだ。
「……待てるか?」
低い、落ち着いた声音が心地よく耳をくすぐる。まるで私を安心させるかのように。
「……うん……」
だから素直に答えた。
それを聞いて、ジェームズは嬉しそうに笑っている。こんなに邪気のない笑顔も出来るんじゃん。そう言ってやろうかと思ったけど。
唇を塞がれた私に、その手立てはなくなってしまった。
【第1章 完】
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