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第2章 1話 伯爵令嬢の実態
私、ミズリークライトンは、パーシモン伯爵家の次女として生まれ育った。
伯爵家と言っても王都から随分遠い。乗合馬車で寝ずの乗り継ぎしたとして二日余裕でかかるような地方を、領地として治めている。
いずれ爵位を継ぐ長男と、金持ちの家に嫁いだ長女のおかげだろうか。とっても好きなようにさせてくれた放任主義な両親のおかげで、女でありながら騎士の道を歩むことが出来たのだ。
なぜ、急にそんな話をしだしたかって?
それは今、そのド田舎の実家に帰ってきているからだ。
ジェームズがいなくなって、固定された業務時間もなくなった自分には、あの城内に居場所がなくなったも同然で。
時々城内の女性使用人用浴場で飛び交う噂話や、マークのいらぬ情報で、アレン王子と婚約者候補達の進歩状況が眠れぬ夜をもたらして、とにかくなにもかもがしんどくなってきていた。
これでまだジェームズがいてくれたら、アホなこと言い合ってなんやかんやで毎日立ち直っていた気がするのに。
思ってた以上に必要な存在だったんだと、失ってから気付く。
そうだ、そのジェームズのアレにもビックリした。
友情の証にしては、随分ごっつい別れのキスをされたのだけど。
アレはどう考えても、ディープのほうだった。……なんだったんだろか。
ぼんやりと、広大な庭に突き出したサンルームの、藤で編み込まれたチェアに優雅に腰掛けてハーブティーが注がれたカップを口に寄せる。
嫁に行った姉の部屋着用ドレスを着て、髪もきっちり結わずに肩に泳がせて。
それはもう優雅なこの様、まるで令嬢のよう。いや本当に私は、令嬢の類いっちゃあ類いなんだけどね。
若干悦に入って、令嬢風を装っていたのに、庭の向こうから視界に写り込む某姿が大きくなってきて、ぶち壊される。
「ほーーうれ、ミズリーっ! いっぱい取れたぞ芋があ! お前が好きな芋だぞー!」
麦わら帽子と首に布巾、灰汁色の作業着で手をブンブン振っているのは、この広大すぎる領地を治めるパーシモン伯爵である我が父である。けして日本でよく見かけた農夫ではない。見た目は限りなく寄っているが。
「ほらーー、ミズリーがちっちゃい頃言っとったがねっ! ジャガジャガ料理、つくったるからねーーっ!」
ちなみに今のは、パーシモン伯爵夫人である我が母である。夫婦揃って似た格好してトテトテとサンルームに寄ってきた。
「お母様っ、違うからっ。“ジャガジャガ”じゃなくて“肉じゃが”だから」
「そうかね、よう似とるから」
「似てはないよね」
親に溜息をついてやる。
昔からこの調子なのだ。
統治よりも農作業が好きな父は、職務を兄に丸投げで毎日畑作業。母も、昔は立派な令嬢気質だったらしいのだが、完全に父に侵食されて今に至る。
まあそんな二人だから、領地内も皆穏やかで協力的であるのかもしれないけど。
こんな感じなので、楽チンで居心地が良い。よってどんどん王都に戻る予定だった日数を超過していっている。念のため、長めに休暇を申請していてよかった。
ただ実家は居心地はいいが、いわゆる暇ではある。農作業するほど元気も出ないし、使用人もしっかり働いてるしで、何もすることがない。
このままだと暇すぎて「やっぱり王都へ」となると思っていた。そんな私の元に、予想外の人物が手紙を寄越してきた。
ローゼンガルデン侯爵家、エスター・オファリムだ。
アレン王子の婚約者候補のひとりの兄で、舞踏会の夜、私にナンパをしてきたチャレンジャーでありキザの極みでもある、あの男だ。
最初は名前を忘れてしまっていたので、どこのどいつだと読み進めようと思っていたけど、序盤でキザのオンパレードだったので一発でわかるという。
なんと、彼はどこからか聞き付けてわざわざ手紙を寄越してきたのだ。彼らの領地が割と近いらしい、半日以上はかかるが。
でもって、なかなかエスターはキザなだけでなく根が明るいのか社交的なのか手紙の内容も楽しく、いつのまにか文通友達になってしまっていた。
そのおかげで、暇潰し(ひどい)となり、結局実家に居座ってしまっている。だって誰も咎めないんだもん。
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