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第2章 2話 エスターからの招待
会うのがあの舞踏会ぶりであるエスターは、赤毛をフワフワとさせてかつニコニコしている。
あの夜のテラスでのことが強烈だったが、改めて良く見ると人好きのしそうな柔らかな面持ちに涙ボクロのなかなかの、いや、前世の日本じゃ間違いなく男性ファッション誌で洒落た服を着まくっているモデルのようである。
さらに今日は、深緑のロングジャケットをキッチリ着ているのでとても好青年に見える。
あの夜がなければ、うっかりポッとしてしまうレベルだ。
「ああっ、なんと美しい。ミズリー殿にまたこうやって会えるなんて夢のようだ。あの時の制服でキッチリした姿もとても麗しかったが、今日はまた……目も言葉も奪われてしまったっ」
相変わらずのようなので、思わず吹いてしまった。
「エスターもとてもかっこいいよ。残念なイメージしかなかったからビックリしちゃった」
「君は、上げたり下げたり僕を揺さぶってくる。そんなところもたまらないよ」
「いや私も違う意味でたまらない」
ふたりでクスクス笑う。
「それにしても、よくまあこんな遠いとこまで遊びにきてくれたね、大丈夫なの? 侯爵家の嫡男となれば忙しいんじゃない? うちの兄を見てると、いつもキリキリアクセク動き回ってるけど」
「僕はただ君にもう一度会いたい、の一心だよ。あの時は王太子殿下にお声をかけて頂いて、すっかり驚き焦ってしまったので」
エスターは少し乗り出すように、顔を近づけた。
「……確認なんだけど、本当に、王太子殿の寵姫、とかではないのだよね? ミズリー」
手紙でも匂わされていたが、たぶん、いやきっとエスターもあの場に留まっていたのだろうから、アレン王子に連れ出される私を目撃していたのだろう。
残念ながら、正妻狙ってますけども寵姫どころかまったく手付けされておりませんがなにか?
「やだなあエスター。私がアレン様と釣り合うと思う? アレン様も言ってたでしょ? 専属騎士なだけ。ていうかエスターの妹様も、それこそ婚約者候補で城に滞在中なんでしょ? どうなの?」
我ながら上手く誘導できた。
そうなのだ、結局心配で不安で聞きたいのだその後のアレン様の周辺事情をっ。
エスターは明らかにホッとしたように微笑んでいる。そういう所も抜かりなくキザで上手い、もう立派としか言えない。
「僕も帰ってきてしまっているので詳しくは知らないのだけど、親に届く手紙によれば、上手くいっているようだよ」
「え?」
失礼にも驚いてしまった。
ユリーシア様よりも一歩前に出た、ということなのだろうか妹さんが。
「ただ、個人的に一歩踏み出せている様子でもないようだよ。僕の妹は割と積極的な性格の持ち主なんだけどね。他の方々もいらっしゃるし。ほらミズリーは知ってるかな。もうひとりの侯爵家の令嬢が、わりと以前から滞在していてすでに王太子殿と仲を深めていたでしょう? それにもうひとりは未成年とはいえ公爵家の令嬢だから、国王がもし結婚を急いでいないのならそのお方が順当に行けば婚約者となるだろうし」
エスターの情報は目から鱗だった。
ユリーシア様しか実はそこまで警戒していなかった。アレン様の感じからすると、ユリーシア様との婚姻に前向きのようだったからだ。
しかし、まさかあの父親の後ろに立っていた美少女が公爵家の令嬢だとは、知らなんだ。
身分でいけば、それほど王太子に相応しい女性はいないではないか。
「そ、そうなんだ……」
なんとか相槌を打つ。
知らぬ間に俯いてしまっていたから、気配を感じギョッとして真横を向く。
エスターが猫のように忍び寄っていた、だけでなく勝手に肩に腕を回してきた。
「ちょっと、エスター・オファリム殿?」
アレン王子の真似して言ってみるがニッコニコしている。やっぱり発言者によるのかフルネーム呼びの威力は。
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