第2章 3話 境界線が目に見える

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第2章 3話 境界線が目に見える

 やっぱりというか、思った通りだったというか、とにかく反対される心配など微塵もしてなかったが、兄のルーベンスは嬉々として首を縦に振った、ブンブンと。 「なんという幸運! まさかローゼンガルデン侯爵家の舞踏会に誘われることがあるなんてっ!」 「興奮してるとこ申し訳ないんですけどお兄様。友人の、友人達が気ままに集うパーティーとの認識で、合致してます? 私たち」 「侯爵家の嫡男だぞっ。その方の類は友を呼ぶんだぞっ。ただの集まりな訳なかろうっ」 「言っておきますけど、舞踏会じゃないですからね。ただの友人達の集いですからね。もうソコだけでもいいから素直に受け止めてね」 「お前が、12歳の時に騎士になると言った時は世も末かと思ったものだが、まさかの王太子様の警護という有り難き任務に就けるとなった時は晴天の霹靂だったが、持つべきものは腐っても妹。我らクライトン家を未来の確固たる繁栄に導く女神となるとは」 「聞いてないな……」  ルーベンスを諦めることにした。  基本は真面目で家族思いの長男である。まあそれの度がすぎるきらいはあるが、あの親にしてこの息子で丁度帳尻があってるようなので、家を出ている娘がとやかくは言うまい。……言うまいが、どさくさにまぎれての『世も末』やら『腐っても妹』やらはずっと根に持ってやる。  テンション上がりきった兄は、その足でさっそくドレスやらなんやらの手配をし始めたようだった。  なのでコッソリ兄の秘書に「くれぐれもよろしく」と釘を刺しておいた。  あのテンションのままドレスの手配なんぞされたら、どんなモノが出来上がってしまうか想像しただけでも恐ろしい。  エスター主催のパーティー当日。ルーベンスと兄の秘書と侍女ひとり連れて馬車で半日かけて行く。夕方からの開始時間に合わせて出発したもんだから空腹がひどい。着いたらソッコー食事にありつこうと思ったが、着いてビックリ。  エスター自身の雰囲気にウッカリしていた。とにかく立派な洋館だった、さすがの侯爵家である。しかも建て直しされてるのか真新しさまである。我が家もそこそこデカイが、色々ひっくるめて比ではない。  そして続々と広い庭に滑り込む馬車も、そこから降り立つ人達も、皆キラキラしている。見るからに貴族そのものだった。 「騙されたっ。エスターめ、友人との簡単な食事会みたいなこと言ってたのに」  私が空腹のお腹をさすりながら呻く横で、ルーベンスがそれ見たことかと冷たい視線を投げてきた。  侍女は控えの間に行き、残りの三人で洋館中央へ足を踏み入れるとズドーンと広いフロアで、そこが今夜のパーティー会場であった。  呆気にとられる。家の中にこんな広いフロアがあるなんて。さすが侯爵家。何度言わすの。  同じ実家で生まれ育った兄にこの驚きの同意を求めようと横を見ると、瞳をランランと輝かせ瞬き、全身から喜びを露にしている。  どうやら兄の方は驚きよりも“未来の確固たる繁栄”について夢を馳せてしまっているようだ。 「違うからね。私ここには嫁に行かないからね」  耳に届いてないようだ。反応がない。いや、あえてのスルーなのかお兄様や。
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