160人が本棚に入れています
本棚に追加
第2章 5話 ケリー王子
顎は押さえられ、不埒な指先は胸に留まったままだが、若干幼さ残る男の表情は険しい。
「あんた、何者?」
逆に問われてしまった。さっき『名前なんてどうでもいい』言ってませんでした?
しかし、その言葉で確信を持った。
この目の前の、人の胸鷲掴みしている男は、このコーポラル国第二王子ケリー様。アレン王子の実弟だ。
こうなると、どんなにいやらしい相手でも話は別で。
出来る範囲で背筋を伸ばして、気持ちは敬礼したまま答える。
「申し遅れましたっ。わたくし、アレン王子の専属警護をさせていただいてました、ミズリークライトンと申します!」
「……兄上の」
若干疑っている視線を上から下へ巡らされる。
ケリー様が知らないのは仕方ないだろう。
ケリー王子が留学の為、国を出た三年前ぐらいから、私は専属警護に就いたのだ。
逆に言えば私も、直接ケリー王子を拝見するのは初めてだ。
もっと言うなら、王太子であるアレン様とは違い、第二王子であるケリー様は、国民の前に顔を出すことは無いに等しい。それは色々なことを危惧してのことらしいのだが、よっぽど城内に縁が深いか、国王や王太子などを間近で見ている身内周辺の者でないと、「王太子に似てますねえ」とはなっても、目の前の彼が第二王子だとイコールになることは、なかなかない。
だからこそケリー様も「何者」と聞いてきたのだろう。
「……なんだ、兄上の手付きか」
「違いますっ! 聞いてました? 専属警護ですっ私っ。あ、失礼いたしましたっ、わたくし、騎士でありますっ」
「ふーーん」
なぜか胸を掴んでいる手が動き出した。
「いやあのっ」
「じゃあなんで、こんなところで、こんなことしてんの?」
いやいやいや、そりゃこっちの台詞でしょうよっ! どっかに留学してたんじゃないんですか? なぜに身分隠したまま、どこぞのパーティーで女を襲ってるんですかっ! てかこんなことって、あなたが今現在仕掛けてきてることですけどっ!
……そう叫びたいのだが相手は王子である。どうしたらいいんだっ。
クリクリと指先で胸の先の尖りを弄られる。
「ああっ……ケリー様っ、その手をどうにかっ」
「兄上と毎晩こんなことやってんの?」
「……わたくしっ、き、騎士なんですっ」
「ベッドの中までずっと一緒とか?」
「違いますっ……やっ」
「……すげえそそる。いっつも合意の上での遊びだったけど、アリだな」
いかん、なぜだ。
王子に変な性癖を覚えさせてしまうなんて、不名誉極まりないじゃないかっ。
ぐぐぐっと睨み付ける。
「ケリー様、お止めくださいませ」
さすがに王子もジッと真顔で見てきた。
「……あんた、エロい」
「なぜっ?!」
ひとっつも睨みの効果が発揮してないようだ。
「そんな潤んだ表情でやめろだなんて、誘ってるだけだろ?」
そう言って、グイッと胸を掬い上げるとドレスから胸を露にする。
薄明かりの中に浮かぶ白い乳房が妙に卑猥だ。
「ケリー様っ?!」
王子は、アレン王子よりも甘味のある面立ちをニッといやらしく歪ませてから、こっちに見せつけるかのように赤い舌を出してゆっくりと胸の先端に近付けていく。
(やばいやばいっ!! だっ、だれかっ助けてくれーーっ!!)
最初のコメントを投稿しよう!