第1章 1話 私、狙ってますっ

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第1章 1話 私、狙ってますっ

 私は今、第二の人生らしきものを謳歌している。  1度目の人生は、ぼちぼちだった。ごめん見栄張った。残念な人生だった。  倉本家の長女として生まれて瑞希(みずき)と名を与えられ、わりと見た目も悪くなかったからソコソコの男女交際もしたんだけど、そのソコソコで調子に乗って遊び過ぎたのか、気付いたら行き遅れて40歳手前。  もう選んでる時間なんてないから、見た目も収入も目を瞑ってそこら辺で出会った男と結婚したら、そいつが、見た目も収入も性格も学歴も夜の営みもソコソコのくせにロクに仕事もせずパチンコと競馬とボートばっかで貧乏まっしぐら。  それをカバーすべきと働きまくったら過労で倒れてポックリ逝った、40歳の誕生日を2ケ月過ぎた私の、呆気ない終焉。  ところが神様がいらっしゃったようで、なぜか今、ミズリー・クライトンとして生まれ変わったのだ。  今だに誕生日の度に、今世の母親に言われる。 「ミズリーは産まれた時からおかしな子だったわねえ。『おぎゃあ』じゃなくて『おや?』って産まれてくる赤ちゃんなんて、聞いたことないわよ」  ええ、私も聞いたことないわ。  そして次に、ここはどこ状態。アメリカ? イギリス?  いいえ、異世界です。  伯爵家に産まれたので、すぐに日本じゃないことは0歳ながら察知したけど、生まれ変わったにしてはこの世界上に『日本』という国が存在しないことを知った当時1歳の私。  どうやら私は、あの地球上とは別の地点に産み落とされたようなのだ。  だけどまさか、赤ちゃんからやり直せるとは思わなかった。だから私は今度は、今度こそは失敗しない。  適当な人生を送ってたら適当な男しか捕まえられない事は前世で死ぬほど、本当に死んじゃうほど身に染みた。  今度こそは、玉の輿に乗ってやる。見た目も収入も学歴も夜の営みも最高峰の男をゲットしてやる。  その為に『おや?』と産まれたその瞬間から努力に努力を重ねて重ねて積みあげて、今こうやってターゲットの傍に立つことを許されたんだからっ。  と、言いたいところだが、“傍”と言うほどでもない。  ここは王宮の王太子専用の薔薇庭園。  溢れんばかりに咲き誇る色とりどりの薔薇に囲まれても、まったく見劣りしない輝くような金髪の、この国の王太子アレン・コーポラル・シュベルバルク様。私のターゲットさま。  どえらい高いだろう石で造られたチェアに腰掛け、同じくどえらい高いだろう石で造られたテーブルの上に用意されたティーを優雅に飲んでいらっしゃる、私のターゲットさま。  ここまで距離を詰めるのに、どんだけの歳月と努力が湯水のように流れていったか。  なのに、その優雅に飲んだティーカップをソーサーに置いて微笑んだアレン様の視線の先は、目の前で同じくティーカップを置いたユリーシア様。どこぞの侯爵の娘であり、アレン様の婚約者……。  聞いてないっ! アレン様に婚約者なんて、聞いてないっ!
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