「アイスクリームが食べたい」

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「アイスクリームが食べたい」

「かみさま  しってるよ。なんでも おねがいをかなえてくれるんでしょ?」 ツインテールの幼女は私を見上げる。 「・・・そうだよ」 私はマニュアル通りに答える。 『相手の質問には出来るだけ「はい」「いいえ」で答えること』『法律に触らない程度の願いを必ず叶えること』『願いを叶えたらすぐに別れること』この3つが、我々に課せられた約束なのだ。 「じゃあ、アイスクリームやさん つれてって!クッキーあじのアイスをダブルでたべたいの。いっしょうのおねがい!」 私に一切の疑いを見せず、幼女は出かける支度を始めた。良い意味で世間を知らない、澄み切った瞳にはどんなものも清らかに映す力が宿っているらしい。 「んもう、なにしてるの!!はやくしないとうりきれちゃうよ!」 幼女は真新しい革靴を履いて、ジタジタと脚を踏み鳴らしている。 「お金は持ってる?」 「おかね?なにそれ?」 「外で物を交換するときに必要なコインだよ」 「そのくらい もってるよ!」 幼女はポケットに手をつっこみ、1円玉を10枚差し出してみせた。 取引に必要な価値を身につけるには、まだ時間がかかるのだろう。私は9割近くを支払う覚悟で幼女についていった。 昼下がりの日射が眩しい。そんなしんどさを感じさせないほど、幼女は目的地へまっしぐらに向かっていた。 そびえ立つビルに混ざって、パステルピンクのキャンピングカーが見えた時の幼女は、ヒヨコのように軽快な動きで喋りだした。 「あれだよ!あれ!」 「・・・クレープ屋さん?」 「そうなんだけど、アイスクリームもおいしいの!ならぼう!」 強引に引かれる手は、ほんのりと温かい。 しばらく待つと、いらっしゃいませー、と、明るい声が幼女に向けられる。同時に幼女は私の方を振り向いた。 「・・・じぶんでたのむの?」 「そうだよ」 私が簡潔に答えると、幼女はたどたどしい言葉で「アイス・・・クッキーあじのダブルを・・・コーンでください!」と頼んだ。 「いただきます!」 幼女はクッキーパウダーを唇につけながら、アイスクリームを頬張った。甘いバニラの香りと、幸せそうな彼女の顔に、アイスの1つ奢っても悪い気はしなかった。 「わたし  アイスクリームたべたことなかったから たべられてうれしい!」 「それは良かったね。」 「・・・アイスたべないの?」 「お仕事中だから。」 「・・・そっかぁ」 幼女はアイスクリームをコーンに押し付ける、最後まで味を楽しめるように食べていた。 「おねがいかなえてくれて ありがとう!」 幼女は、帰ってきても無邪気に笑っていた。 私は、何も言わず立ち去る準備をした。 「・・・もういっちゃうの?」 「願いを叶えたからね。」 幼女は、一瞬寂しそうな顔をしながらも、すぐに笑顔になった。 「またね!!」 彼女の一生のお願いは、とても可愛らしいものだった。
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