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隣の、と言っても、祖母の家からはゆうに三キロは離れている。しかし、一人で暮らしている祖母のことを気に掛けてくれているようで、陸も何度か顔を合わせたことがあった。
「あー、すいません。ちょっと聞きたいんですけど、バス停ってどこにあります? ばあちゃんがそれに乗ってこいって言ってたんですけど」
「ばすてい?」
吉田夫妻が、まるで初めて聞いた言葉のように不確かな口調で繰り返した。
「この町にバスなんて走ってたか? もう止めちまったんじゃねぇか?」
「あらー、どうだったかねぇ。そう言えば、木村さんの息子さんが運転手だったとか聞いたような……」
と、ものすごくフワフワした情報が二人の間を飛び交う。
さんざん議論して出た結論は「この辺の人間は、バスなんて乗らないからねぇ」だった。
質問した手前、陸は大人しく聞いていたが、内心では後悔していた。これならさっさと歩いたほうが早かったな……。
「乗せてってやりたいけど定員オーバーだからなぁ。よかったら後で迎えにきてやるよ。歩いたら、たぶん二時間は掛かるだろ」
「いや、大丈夫っす。俺、この町で暮らすことになったし、少し歩いてみます」
「そういや、向こうの高校追い出されたんだってな。イキのいい奴だなってばあさんと笑ってたんだよ」
田舎の情報の早さなのか、祖母の口の軽さなのか、それともその両方か。この町での生活に対して一抹の不安が陸の胸をよぎった。
「荷物だけでも先に持っていってやるから、乗せな」
「あ、助かります」
陸がボストンバッグを荷台に放り投げると、吉田夫妻の軽トラはエンジン音を鳴らして走り去っていった。
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