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「ばあちゃん! 着いたぞー!」
ようやく辿り着いて、陸は玄関で叫んだ。吉田夫妻が言ったとおり、祖母の家までは遠かった。
「あー、くそ。やっぱり迎えに来てもらえばよかった! なんで田舎の道はこうも歩きづれーんだよ!」
靴を脱ぎながら陸は悪態をついた。歩いている途中で、バスに追い越されたのが最大の原因だ。
「そういや、あいつ、元気にしてっかな」
ぽつりと呟く。あいつに会うのは半年振りか。ばあちゃんが何も言ってこないってことは、きっと元気にしているんだろうけど。
「ばあちゃん、いるんだろー!」
もう一声掛けたが、返事はない。玄関開けっ放しでどこに行ってんだよ。
「おや、来たね。悪ガキが」
振り向くと、祖母の千代が煙の立ち上る煙草を手に立っていた。ふぅっと煙を吐いて「荷物はそこだよ」と顎をしゃくった。
真っ白になった髪を後ろで緩くまとめて、気怠そうに煙草を吹かす姿は、何というか、古い映画のワンシーンみたいにキマっていた。着ているのは、ダサい花柄の農作業着なんだけど。
「んで、あいつは?」
「庭にいるよ。会いに行ってやりな」
そう言われて、陸はもう一度靴をはき直した。ぐるりと家の周りを通って庭に出る。
「ソラ!」
声を掛けると、ワン! と声が聞こえた。じゃらじゃらと鎖の擦れる音がする。ソラは五年前に陸が拾った犬だ。
陸の家では、外で自由にしてやれるスペースがなくて飼えなかったのだ。だが、陸がどうしても離れたくない、と大騒ぎしたため、千代の家で飼われることになった。ソラに会うために、陸はこの「ド田舎」に年に数回遊びに来る。
「お前、またデカくなったなー!」
久々に会った陸に興奮気味のソラを、わしゃわしゃと撫でてやると、尻尾の振りがいっそう大きくなる。
「人間にもそれくらい愛想よければ、こんな場所に来ることもなかっただろうにねぇ」
いつの間にか後ろにいた千代が呆れたように言った。
「余計なお世話」
ソラがぺろりと陸の顔を舐める。
もうひと撫でしてやって、辺りをゆっくりと見回す。
広い空、草のにおい、土のにおい、そして千代のタバコのにおい。
新しい居場所の空気を、陸は思い切り深く吸い込んだ。
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