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鬼沢家が建っているのは、山のど真ん中だ。
この町と隣の町を繋ぐ国道から横にそれて、田んぼや畑が広がった土地のすき間を縫うような細い道を進む。そして、その道はいつの間にか山の斜面をゆるゆると登り始め、木々のトンネルが深くなって、少し不安になり始めたころ、突然ぽっかりと開けた場所に建つ家。
昔、千代にどうしてこんな場所に住んでいるのかと聞いたことがある。
「あたしが好きで建てたんじゃないよ。生まれた家がここだっただけさ」
千代はそう答えた。
「ばあちゃんも、もっと町中に住めばいいんじゃね? こんな場所じゃ不便だろ」
激しいバウンドに揺られながら言うと、千代はふん、と鼻を鳴らした。
「いまさら引っ越すほうが面倒だよ。それに、この畑と田んぼはどうするんだい。今じゃ売ろうったって売れるもんじゃないんだ」
鬼沢家に辿り着くまでに通り過ぎる田んぼや畑、ついでに言うと、山を含めたこの辺一帯全てが鬼沢家の土地なのだ。
もちろん、全てを千代が一人で管理することはできないため、田んぼや畑のほとんどは人を雇ったり、貸し出したりしている。
それでも千代は毎日のように田畑に行き、作業をする。「働かざる者食うべからず」。それが千代の口癖だ。
「着いたよ」
陸が降ろされたのは畑の一画。中に足を踏み入れると、スニーカーの裏にふかふかの土の感触。
ぐん、と大きく伸びをして、深く息を吸った。朝の少し湿った冷たい空気と、土のにおいが肺を満たす。早起きもたまにはいいもんだな。
「じゃあ、今日はこの畑に支柱を立ててもらおうか。小さい頃に教えてやっただろ? あんたも由梨子さんもずいぶんと下手くそだったけどね。少しはデカくなったんだからなんとかなるだろ。道具はそこに用意しておいたから、しっかりね」
「はぁ!? 待て待て! 俺一人でやるのかよ!」
颯爽と軽トラに乗り込む千代を慌てて追いかける。
「あたしが一人でやってるんだ。あんただってできるだろ。一人じゃ寂しいだろうから、ソラは置いていってやるよ」
いつの間にか荷台から降ろされたソラは、畑の隅っこで楽しそうに土を掘り返している。
「じゃあ、朝飯ができたら迎えにきてやるから、あとは頼むよ」
軽トラは、これまた颯爽とUターンして、鬼沢家へと戻っていった。
「マジかよ……」
陸の嘆きを聞いたソラが励ますように一声、ワンと鳴いた。
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