働かざる者食うべからず、の教え

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****  ブルン、というエンジン音が再び聞こえてきたのは、陸が畑に置き去りにされて二時間が立とうとした頃だった。 「初日にしては、なかなか頑張ったじゃないか」  陸が必死になって立てた支柱を、千代が面白そうに眺めた。  何とか格好をつけたが、あちこちねじ曲がったり歪んでいたりで、陸の苦闘の跡がにじんでいる。 「ったく、こういうことなら初めっから言えよな。そしたら絶対来なかったのに」  ぶつくさ言いながらソラを荷台に乗せると、軽トラの助手席に乗り込んだ。 「もう来ちまったんだから仕方ないね。働かざる者食うべからず。さ、乗りな。今日はこれで勘弁してやるから、飯食ったらもう一眠りしな。そんで、ちゃーんと勉強もするんだよ」 「家にいるときよりスケジュールきついんだけど」 「そりゃそうさ。人生、暇を持て余すことほど、もったいないことはないんだからね」  暇を持て余す、ね。  陸は、胸の内でその言葉を繰り返して、ぼんやりと自分の手を見つめた。土に汚れた手。いつも誰かを傷付けていた、この手。  『オニ』なんてただのあだ名だ。笑い飛ばせばそれで済むはずなのに。それなのに、そのくだらない名前にこんなにも振り回されている、なんて。  自分が持て余してるのは時間なんかじゃない。自分自身だ。  ああ、くだらねー。  陸は視線を窓の外へ移し、軽トラの激しいバウンドに身を委ねた。
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