7人が本棚に入れています
本棚に追加
****
ブルン、というエンジン音が再び聞こえてきたのは、陸が畑に置き去りにされて二時間が立とうとした頃だった。
「初日にしては、なかなか頑張ったじゃないか」
陸が必死になって立てた支柱を、千代が面白そうに眺めた。
何とか格好をつけたが、あちこちねじ曲がったり歪んでいたりで、陸の苦闘の跡がにじんでいる。
「ったく、こういうことなら初めっから言えよな。そしたら絶対来なかったのに」
ぶつくさ言いながらソラを荷台に乗せると、軽トラの助手席に乗り込んだ。
「もう来ちまったんだから仕方ないね。働かざる者食うべからず。さ、乗りな。今日はこれで勘弁してやるから、飯食ったらもう一眠りしな。そんで、ちゃーんと勉強もするんだよ」
「家にいるときよりスケジュールきついんだけど」
「そりゃそうさ。人生、暇を持て余すことほど、もったいないことはないんだからね」
暇を持て余す、ね。
陸は、胸の内でその言葉を繰り返して、ぼんやりと自分の手を見つめた。土に汚れた手。いつも誰かを傷付けていた、この手。
『オニ』なんてただのあだ名だ。笑い飛ばせばそれで済むはずなのに。それなのに、そのくだらない名前にこんなにも振り回されている、なんて。
自分が持て余してるのは時間なんかじゃない。自分自身だ。
ああ、くだらねー。
陸は視線を窓の外へ移し、軽トラの激しいバウンドに身を委ねた。
最初のコメントを投稿しよう!