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追放
例年より早い梅雨明けだった。
昨日まで降り続いた雨は湿気だけを残して去っていった。そこへ夏が忍び込む。じっとりと熱をはらんだ空気が、少年の背中に制服のシャツをぺたりと貼り付かせた。
しかし、その原因は湿気だけではなく――その少年を取り囲んでいるヤンキーたちだった。
学校の校舎裏、背の低いメガネを掛けた真面目そうな少年と、彼を取り囲む色も形もさまざまな髪型のヤンキー五人。
絵に描いたようなカツアゲの図である。
「ちょっと金、貸してくれるぅ?」
だらしなく制服を着たヤンキーたちが、絶対に返す気などない口調で、校則通りにきっちりと制服を着る少年にじりじりと迫る。
「ぼ、僕、そんなにお金持ってないんだけど……」
「いいからいいから。取りあえず、財布出してみよっかぁ。ね、怖くないからさぁ」
ねっとりとそう言いながらヤンキーの一人が、少年が胸元で抱きかかえている鞄に手を掛けたその瞬間、大声が飛び込んできた。
「『オニ』だー!」
ヤンキーたちがぴたりと動きを止める。ざわりと動揺が広がった。
「『オニ』が来た!」
と、叫びながら(ついでに鼻血も出しながら)校舎の陰から姿を覗かせたのは、見張り役のチャラそうな金髪のヤンキー。その背後からにゅっと伸びた手が、金髪の首根っこを捕まえる。
「誰が『オニ』だって、あぁ?」
まるで天を突くようにツンツンと立った赤毛の少年が現れた。
はだけたシャツの下には挑発的な英単語のTシャツが透けており、ビジュアルでは確実にヤンキーの方にカテゴライズされるはずなのに、ヤンキーたちは彼に敵意むき出しだ。
「てめぇには関係ねぇだろ、とっとと帰れよ」
リーダー格のヤンキーが凄むが、赤毛の少年は涼しい顔で言い返す。
「うるせーな。そんな弱っちい奴に大勢でかかってんじゃねーよ。情けねーな」
「なんだとぉ」
ヤンキーたちが一瞬で殺気立つ(ただ一人、金髪だけはずっと青ざめていた)。
「今日こそボコってやっからな! 覚悟しろよ!」
「いいから、さっさと来いよ。オメーらと違って暇じゃねーんだ」
その言葉が合図だったかのように、ヤンキーたちはいっせいに赤毛の少年に飛びかかっていった――が、数分後、彼らは一人残らず地面に転がされていた。
「おう、大丈夫か?」
赤毛が足下に転がった金髪を一蹴りして、取り囲まれていたメガネに声を掛けると、彼はびくりと体を強ばらせた。
「う、うん。ありがとう、鬼沢くん」
赤毛の少年の名は鬼沢陸、高校二年生の十七歳。
――通称『オニ』。
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