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千代の言い付け通り、目印の赤いロープに沿って山を登る。
「くっそ重い……」
切れ切れの息とともに、悪態をつく。そうでもしないと、足が前に進みそうになかった。
どうやら、この道は頂上を目指すものではなく、山の裏側へ回る道のようだった。そのため勾配はほとんどないのだが、背負っているカゴの重さと夏の暑さが、ひたすらに陸の体力を奪っていく。
喉の渇きに耐えきれず、カゴの中からキュウリを一本取り出し、そのままかじりついた。
一本くらいバレないだろう。いや、この際バレたって構うもんか。
「なんだって、こんなことしなくちゃなんねーんだよ。てか、その小屋ってどこだよ」
キュウリをかじりながら、ゆっくりと周囲を見渡す。
木々の間からこぼれてくる日差しが、陸をまだらに照らし出す。わんわんと響き渡る蝉の音や、ひっきりなしに聞こえてる鳥の声や葉ずれの音に耳が慣れてくると、山の中は不思議な静けさで満ちていた。一人きりのようで、常に何かの気配に囲まれてもいる。
最後の一口を口に放り込むと、陸は歩く速度を速めた。
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