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校舎を出ると、陸は大きく伸びをした。空が夕陽でオレンジ色に染められている。
「仕方ねーからバイトでも探すかな」
「お前、もうちょっと落ち込めよ。これから母さんに怒られちゃうんだぞ」
「そっちかよ」
「鬼沢くん!」
振り向くと、先ほど囲まれていたメガネ――岡嶋優斗が走り寄ってくる。
「おお、岡嶋。どうした?」
「どうしたって……。鬼沢くんが退学になるって聞いたから」
「厄介者がいなくなるってみんな喜んでんだろ」
「そんなのおかしいよ! 鬼沢くんは僕を助けてくれたのに……。僕、校長先生に話してくる!」
駆け出そうとする岡嶋の腕を、陸がつかむ。小柄な体がぐらりとバランスを崩し、岡嶋は尻餅をついた。
「いたた……」
「お前、ホントどんくさいな。そんなんだから奴らに絡まれるんだよ」
岡嶋を引っ張り上げて立たせると、陸は呆れたように言った。
「それとこれとは別だよ。それより、何で止めるのさ」
「あの校長が俺を退学にしたいのは、俺が気に入らないからだよ。お前が何を言ったって変わんねーよ。ムダムダ」
「お前、何でそんなに嫌われてるのよ」
孝男の問いに、陸は心当たりしかなかったが、一番の原因は入学式の後、上級生と乱闘騒ぎを起こしたときの説教中に「うるせーハゲ」という大きめの呟きを聞かれたことだろうな、と思っている。
そう考えれば、あの校長も一年以上我慢したんだから大したもんだ。
「まぁいろいろあったんだよ。だから、退学になるのはお前のせいじゃない。気にすんなって」
陸はまた大きく伸びをした。孝男と岡嶋が呆れたようにその姿を見ている。
湿っていた風は先ほどよりもずっと軽やかになり、夏の気配を強めていた。
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