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「なんか、ホントにごめんね。僕のせいで……」
帰り道も、岡嶋はずっとしょんぼりしていた。
「だから、お前のせいじゃねーって言ってんだろ」
「ごめん……」
「そんなにヘコヘコ謝ってばっかりだから、あいつらにも馬鹿にされるんだろうが。人のことなんか気にすんなよ」
岡嶋を見ていると、陸は何だかイライラした。
卑屈な態度のせいだけじゃない。もっと、何か奥のほうで疼いているものが陸の心を揺さぶるのだ。
初めて岡嶋に会ったのは高校の入学式。
岡嶋と鬼沢、で出席番号が前後していたせいで、この高校で初めて口をきいた相手でもある。
事件は入学式が終わったときに起こった。陸の赤毛に目をつけた上級生が絡んできたのだ。売られたケンカは残さず買ってきた(そして勝ってきた)陸は、その日ももちろん買った。たちまち、きゃあとかわーとか声が上がって大騒ぎになった。
何人かを殴り飛ばしたとき、後ろから「危ない!」と声がした。陸が振り返ると、パイプ椅子を振り上げた上級生の腰にしがみついている奴がいた。それが岡嶋だった。
「な、なんだよ、こいつ!」
しがみつかれた方は、振り払おうと必死に腰をくねらせていた。その姿があまりにも滑稽で、この騒ぎにクスクスと笑い声が混じる。
「離せよ、この。離せってば!」
「おめーがな」
その手からパイプ椅子をもぎ取ると、顔に一発ぶちこんでやった。吹っ飛んだ上級生と一緒になって、岡嶋まで廊下を転がっていく。
「あたた……」
「――大丈夫かよ」
「う、うん。ありがとう。鬼沢くん、強いんだね」
陸の差し出した手を岡嶋が取って立ち上がった。
そして、その日から岡嶋は『オニ』の子分として、全校生徒と教師に認識されることになる……。
つまり、岡嶋がガラの悪い連中に絡まれる原因は陸なのだ。それなのに、当の岡嶋はのほほんとして、陸に恨み言のひとつも言わない。あげく、勝手に責任を感じてこんなに落ち込んでいる。
変なやつ。
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