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「鬼沢くん、遠くに行っちゃうんだね」
「まぁ……な」
「どれくらい遠いんだろ。僕、遊びに行ったりしてもいいかな」
陸がぴたりと足を止めた。
「お前さ、俺のことどう思ってるわけ?」
思わず口を突いて出た言葉に、陸自身がうろたえてしまう。なんだこのめんどくせー女みたいな質問は……!
「いや、つまり、お前がいろいろ絡まれるのは俺のせいなのは分かってるだろ。なのに、なんでそんなヘラヘラしてられるんだよ」
「なんでって、鬼沢くんはいつも僕を助けてくれたのに」
陸の心がじくりと疼く。
かさぶたの端っこがめくれて、血が滲んだときのようなくすぐったさと痛み、それにちょっとした罪悪感。
「変なやつ」
今度ははっきりと口にして歩き出した。その後ろを岡嶋が小走りでついてくる。街灯に照らされて、二つの影が伸び縮みしながら二人と一緒に進んでいく。
「つーか、お前の家ってどこだよ」
「あのアパート」
岡嶋が指した先にあったのは、今にも崩れそうなボロアパートだった。
まるで百年前からそこにあったんじゃないかというくらい(そんなわけはないが)朽ちていて、その中で人間が生活を営んでいるなんてとても思えなかった。
剥き出しの階段はいたるところが錆びて、触れたら崩れてしまいそうなくらいに頼りない。各部屋の窓のサッシには変色したビニール傘がオブジェのように何本もぶら下がり、駐輪場とおぼしきスペースには陸が子どものころに流行ったキャラクターの自転車が横倒しに倒れていた。
「……ここかよ」
そう言ったきり言葉を失った陸に、岡嶋は苦笑いした。
「まあ、よくある話だけど。僕の父親って、ちょっとお金にだらしない人だったんだ」
岡嶋の説明によると、父親の借金が原因で両親は離婚。だが、母親も連帯保証人になっていたため、今も借金の返済に追われているのだとか。当の父親は行方をくらまして、現在どこでどうしているのか分からないらしい。
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