異世界での出会い

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異世界へ来てから、一ヶ月が経とうとしていた。 何もせず、居候するわけにもいかず、ハルの店を手伝っている。 少しずつこの世界での生活には慣れてきた。 「ヒロ、これ頼んでもいいかい?」 「あぁ、わかった」 話してみれば、案外みんな気さくだった。 人間の俺を受け入れてくれて、普通に話しかけてくれる。 「マスター、よかったなぁ。かわいい嫁ができて」 「こらこら、からかわないで」 マスターこと、ハルは客のからかいをさらっと受け流す。 この世界には、性別の隔たりがないことは、薄々気が付いていたが…。 「ヒロ?どうかした?」 「いや…別に」 どうしてだろうな。 お世辞にも広いとは言えない風呂に、二人で入るのは…。 よくわからない。 …そういえば、ハルが普通にしているから考えたことがなかったけど。 「ハル。お前人間なのか?」 客はみんな人間じゃない。 簡単に言うなら妖怪だ。 何かしら人間とは異なっている。 けどハルは…。 人間と変わらない。 「まさかっ。僕もみんなと同じで人間じゃないよ」 「でも、特に変わっているところは…」 そう言うと、 「僕はロンと同じで猫又だよ。ロンと同じ一族。これは本当の姿じゃないんだ」 「へー…」 ハルは変化(へんげ)することができるのか。 「ん?興味ある?」 「えっ⁉いや別に…」 気になるは気になるけど…。 「まぁ見せてって言われても、見せないけど…。機会があったらね」 「はぁ…」 数か月後、 「ヒロ、村に行こうよ」 突然、客からそんなことを言われたのは、ハルがゴミ出しに行っている時。 他には客はいない。 「はっ?」 村? 「僕が案内してあげるよっ」 妖怪の子どもだ。 ひとつ目の。 「えっ、でも…」 ハルがいないのに勝手に行くのもなぁ…。 「いいから行こうよっ」 そう言って、手を引かれ、店を飛び出す。 大丈夫なのかな…? ひとつ目の子どもに連れて来られた場所は、この世界に来た時、最初にいた場所だった。 「っ…」 店では、好奇な目で見られることが少ないからか、やっぱりここは少し不気味だな…。 「ねっヒロ、こっちこっち」 手を強引に引かれ、ある店まで連れて行かれた。 その店の看板の字は読めないが…。 なんとなく、入ってはいけない気がして立ち止まった。 「ヒロ?入ろうよ」 「いや…。俺は戻るよ」 「僕のために、この店に入ってよっ」 必死に僕を見せに入れようとするひとつ目の妖怪。 ダメだ。 入っては。 二度と、ハルに会えなくなるかもしれない。 そう思うと恐怖で身体が震えだした。 「ハル…」 怖くなって、ハルの名を呼んだ刹那、 「呼んだ?ヒロ」 ふわっと少し冷たい風が吹いたと思ったら、後ろから抱き締められる。 顔を見なくてもわかる。 ハルだ。 俺とひとつ目の妖怪の間には、いつの間にかロンがいた。 俺を守るように…。 尻尾をピンッと立て、毛を逆立てていた。 「ニャーオ」 「ま、マスター…」 ひとつ目の子どもは震えている。 「ねぇ、君。今何をしようとしていたのかな?」 「っ…そ、それは…」 「ヒロは僕のモノだ」 …俺はハルの『モノ』ではない気がするけど。 余計な口は挟まないでおこう…。 「次、こんな真似をしたら…わかるよね?」 俺はハルに後ろから抱き締められているせいで、ハルの表情はわからないが…。 ロンの態度、ハルの声色、何よりもひとつ目の子どもの態度でわかる。 ハルは怒っている。 何に対してかは、よくわからないが…。 ひとつ目の子どもは、ハルの言葉にただひたすらコクコクと頷き、前のめりになりながら逃げて行った。 「ハル…?」 俺の呼びかけにぎゅっと抱き締めて答えるハル。 「よかった…無事で」 状況がよくわからない俺は『何が』と聞こうとした時、ふと周りが騒がしいことに気が付く。 「…野次馬か」 まぁいい機会か、と呟くハル。 「みんな、聞いて」 ハルの言葉に騒がしかった周囲が静まり返る。
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