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嵐のまえぶれ
秋の陽射しを流し込んだような飴色に大地が染まる。ザワザワと穂を揺らして渡る風。空が茜に燃え、山の端に熟れた火種が傾いていく。たなびく雲を金色のリボンに変えて、今日が暮れてゆく。
「ハミル!」
稜線が光る。見慣れた風景が魔法のように鮮やかに輝く、この時間が好きだ。農作業での足腰の痛みも吹き飛び、疲労感が心地良い達成感に昇華する。また明日も頑張ろう――そんな活力が満ちてくるのだ。
「妙だな。風の匂いが重い。明日は荒れるかもしれん」
鍬を僕に寄こして、父さんはイモの入った麻袋を担ぎ、西南の空を仰いで瞳を細めた。こんなに美しい夕陽だけれど、父さんの気象予報が外れた例はない。空の色、雲の形、風の匂い、それに虫や鳥の動き。大地の民に取って自然の変化を読むことは何よりも大切で、その手掛かりは、やはり自然の中にある。先祖代々から受け継がれてきた教えだ。
「収穫が近いのに」
穂を膨らませた黄金の海原を眺めて、項垂れる。手塩にかけて育てた苦労も、一度自然の猛威に遭遇すれば、ひとたまりもない。人の営みは、自然の前では余りに無力だ。
「ああ……祈るしかないな」
父さんの掌が肩をポンポンと叩いた。それでも受け入れなくては――見上げると、達観した父さんの眼差しが頷いた。
「帰るぞ。母さん達が待っている」
麦畑の間を長く伸びた影を連れて、母さんと妹のメリルが待つ家路を急ぐ。僕達が通り過ぎた後を追いかけるように、足元の宵闇から虫の声が囁き出した。
父さんと泥だらけになって、朝から晩まで働く生活は嫌いではない。先月12歳になったばかりの僕は、こんな日がずっと続くのだと思っていた。
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