戴冠式

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戴冠式

 戴冠式は、王宮の傍に建つ大聖堂で執り行われる。王族の姓ゴルドネ(黄金色)を体現するように、天井から下げられた巨大なランプには、黄金色のキャンドルが12本取り付けられ、祭壇を始め室内を飾る装飾品も全て黄金色で整えられている。  賛美歌が流れる中、僕は祭壇の前で跪いている。式典は粛々と進み、後はゴルドネ王から冠を受けるだけだ。真白な正装と黄金色のマントに包まれた身体は、続く緊張で強張ってきた。俯いたまま、床に敷かれた深紅の絨毯を見詰める。  このまま、無事に終わるのだろうか。けれども、御神託が外れるとも思えない。だとしたら、僕はいつ、誰に――?  僕のすぐ後ろには、ゴルドネ王とラルジャン様が着席している。その後ろに6人の王子達と彼ら専属の神官達が付き従い、更に国内を統べる上位貴族達が参列している。そして、大聖堂の内外には、オスクロ様率いる近衛隊が厳重に警備している。 「偉大なるゴルドネ王、若きユクレス王子よ、こちらへ」  賛美歌の余韻が響く中、神官長が重々しく口を開いた。ついに、冠を受ける。立ち上がり、祭壇の真下まで歩を進める。正面向かって右に王が立ち、左に僕が跪く。  ――ヒュンッ……ボンッ!  空気を切り裂く乾いた音に続いて、王の後方の床から火の手が上がった。 「わあっ、炎が!」  王子や神官、貴族達からワアキャアと悲鳴か上がる。天井のランプが大きく揺れている。矢に射貫かれたキャンドルが絨毯を焦がしている。 「水を! 誰かっ!」 「ゴルドネ王、こちらへ!」  怒号が飛び交い、扉へ向かって駆け出す貴族達。近衛兵が避難を促す中、ラルジャン様が僕に駆け寄ってくる。 「王子も、早く!」  足が竦んで動けずにいた。彼が伸ばしてくれた白い手を掴もうと立ち上がり、一歩踏み出した、その時――。 「う、ぐっ……ゴボッ」  胸の奥が焼けるように熱くなり、呼吸が出来なくなった。喉を搔きむしり、息をしようとするけれど――。 「ユクレス王子っ!!」  絨毯の上に倒れた。ラルジャン様の悲鳴。視界がみるみる暗くなる。 「ぁ……ぁぅ……」  釣られた魚のように口をパクパクと動かすも、肝心の空気が入らない。暗殺……僕は毒殺されるのか。 「ごめんね」  遠くなる喧騒の中で、ラルジャン様の呟きが耳の底に落ちた。
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