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「この箱は何であるか?」  交番でお巡りさんが光を一切反射しない真っ黒な箱を前にして言った。 「こんなに黒い箱は見たことが無い。まるで漆黒の闇のようだ」 「いや、お巡りさん。漆黒とは文字通り(うるし)で塗った黒ですよ。光を反射します。これは漆黒じゃないですよ」  きっとお巡りさんは、覚えたての言葉を使いたがる子供のように漆黒と言いたかっただけなんだろうと僕は思った。 「では艶消し黒だな」  お巡りさんはつまらなそうに書類に書き込んだ。僕はマットブラックと言いかけたが、話が長くなりそうだからやめた。  縦横奥行きがそれぞれ15cmほどのその箱は舗道の植え込みに生えていた雑草の中に隠れるように落ちていた。  その箱の落ちていた場所だけ時空が落ち込んでいるように見えて、僕は光を一切反射しないその箱に光とともに吸い込まれそうだった。
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