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Monday2
俺の背中に腕を回して、フミアキが俺の腰を抱き上げる。
促されるまま緩やかに足を開くと、猛った熱が俺の体内に侵入してきた。
「んう…っ!」
悲鳴にも似た嬌声を押し殺しながら、俺は長く息を吐く。
この感覚は「痛み」に少し似ている…と思う。
しかしそれはあくまでも「似ている」だけで、「痛み」ではない。
身体に襲いかかってくる衝撃は、「痛み」に似ているけれど。
衝撃の後にやってくる感覚は、紛れもない「快感」だ。
押し開かれ、内側を擦られ、脳髄まで痺れるような「快感」が背筋を駆け上る。
クラクラするような感覚に思わず声を上げそうになって、俺は慌てて口唇を噛んだ。
一瞬だけ押さえきれずに洩れてしまった声は、まるで痛みを堪えているようで。
腰を進めかけていたフミアキが、動きを止める。
「辛いの?」
「…別に」
この行為に対して、今更なんの感慨もない。
咄嗟に声を抑えたのは、快感に悶え狂って嬌声をあげる自分のコトを一瞬客観的に考えてしまい、そのあまりの無様さに思わずそうしてしまっただけで。
少なくとも、今の俺にとってコレはビジネスに過ぎない。
「大丈夫?」
「バッカ…、続けろよ」
この行為に俺が傷ついている…と思いこんでいるフミアキを安心させる為に、俺は手を伸ばしてフミアキの顔を引き寄せその口唇を悪戯っぽく舐めてやった。
暗闇の中で、フミアキが微かに安堵したみたいな顔をしたのが見える。
全く、これじゃどっちが金で買われてるのか判りゃしねェよな。
「…あ……う……っ」
腰を押し進められて、俺は眉を顰めた。
俺に対する気遣いとは裏腹に、フミアキのソレは少し長めのロングサイズをしてやがる。
フミアキは、俺同様に音楽でメシを食っている人間だ。
とは言っても、コイツのメシのタネは弦が4本張られている楽器を奏でる腕前…すなわちベーシストで、とどのつまり「人気歌手=俺」の後ろで演奏をするサポートメンバーの一人…だった。
しかし人並みよりもちょこっと抜きん出た上背と、穏やかで甘いマスクに件の「ロマンチスト」な性格と、むしろ音楽業界よりもモデルとか俳優とかの方が向いているンじゃないかと思う。
ごく普通の友人として付き合っていた頃は、俺にとってフミアキのソレのサイズが人並み以上か以下か…? なんてのは全く無縁で知る必要はなかった。
現在、ソイツを体内に迎え入れなければならない状況に置いて、むしろ知りたくもない話…だったにも関わらず知らざるを得ない事態になっている訳だ。
本当のところ、ソレのサイズと身長ってのに関連性があるのかどうか、俺は知らない。
だが、素っ裸になって立った時のバランス…とか考えると、上背のあるヤツはやっぱりそれなりなのかな? とか思う。
つまり「モデルとか俳優とかの方が向いている」と思われるようなフミアキは、そーいうコトになってる……らしいのだ。
最初の頃などは、全部を飲み込まされると脳天まで串刺しにされたような気分になった。
「…柊一さん…」
一度全部をねじ込んだ後、俺の呼吸が整うまでの短い時間。
フミアキは必ず啄むようなキスの雨をしかけてくる。
そして、耳元を掠めていく時に名前を囁いて。
最初の頃はくすぐったくて、笑い出しそうになるのを我慢するのに骨を折ったが。
すっかり馴らされた身体は、今では耳殻に熱い吐息を吹き掛けられたり、柔らかい皮膚を口唇で愛撫されると、イヤでも身体が反応しはじめてしまう。
冷静に考えると、フミアキのこの行為は完全に「オンナ」を相手にしているのとなんら変わりがない…と思う。
本人は大真面目に「お姫様ゴッコ」に血道を上げているらしいから、これまた本気でそうした行為に及んでいるのだろうとは思うが。
しかしこっちもこれだけ煽られて、半ばまともな思考が出来ない状態にあるから聞き流していられるが。
よくもまぁ(自分で言うのもなんだが)オッサンと呼んでもおかしくないような男を相手に、吹き出しもせずにそんな事が出来るモンだと感心すらする。
もっともそんな風に思えるのは素面に返った時であって、フミアキが夢中になって突き上げてくれば件の猟奇的なシロモノによって、俺の思考は完全に吹っ飛ばされてしまうが。
「あ……っ! や……ぁっ!」
まるで溺れかけているかのように腕を伸ばし、空を掻く。
その手を掴んで、フミアキは怒濤のような愛撫をしかけてくる。
それと同時に、やはり怒濤のような快楽の波にさらわれて。
俺の意識は、完全に真っ白な闇の中に落ちていった。
深夜、俺は隣で寝返りを打ったフミアキの気配で意識を取り戻す。
生暖かい奈落の底に落とされて、身動き一つ出来ないままただ漂っているような眠りからの覚醒。
時に、戻り掛けた意識の中で「意識を失ってしまうのと、眠っているのは、どう違うのだろうか?」などと愚にもつかない事を考える。
俺は元々、あまり眠りが深い方ではない。
前夜の激しい行為で消耗して、明け方までは眠っていられるが。
しかし「添い寝」をされている以上は、それも長くは持たない。
ウトウト眠っては、隣の気配に意識を揺さぶられ。
そして明け方、相手が起き出せばもう眠ってなどいられる訳もない。
「行くのか?」
細心の注意を払ってベッドを抜け出した(つもりの)フミアキに、俺は声を掛ける。
「スミマセン、起こしてしまいましたか?」
「なに言ってンだよ。行ってらっしゃいのキスとかゆーの、して欲しいんだろ?」
揶揄する俺に、フミアキは照れたように笑って。
あの独特のキリンのような仕種で身を屈めて、口唇を重ね合わせた。
「また、来週きます」
「ああ、待ってるよ」
その一言に、フミアキは少し残念そうに笑い。
名残惜しそうに俺の髪を撫でると、身を起こして着替えの続きに取りかかった。
部屋を出て行くその最後の瞬間まで、俺から視線を外そうとはせず。
そうしてフミアキが部屋から出て行って、俺はようやく「本当の眠り」に落ちるのだ。
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