黄昏の約束

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『ねぇ、最後に私のワガママを聞いてくれる?』  それが彼女、佳菜子との最後のデートだった。  彼女の生まれた神奈川県の北西部にある、彼女の思いでの場所に行きたい。それが彼女の最後のお願いであり、最後のデートスポットとなった。 『明るいうちに行って、帰ってこよう』と僕が言った言葉に、彼女は首を縦には振らず、『夕方じゃないとダメなの・・・』と謎めいた言葉を言った。  彼女に云われるがままに、陽も沈み始めた頃に辿り着くよう、お昼過ぎに彼女を車に乗せて出発した。  途中、何度か休憩を挟みながらのんびりとした久しぶりのドライブ。彼女は車の窓を全開に開けて、子供のようにはしゃいでいる。  最後の休憩をコンビニの大きな駐車場に車を停めて取ることに決めると、彼女は小さな紙コップを購入した。 『えっ?何で紙コップを買うの』  素直に感じた疑問を言葉にすると、彼女は一言『ナイショ』とはぐらかした。  彼女が望んだ場所に到着した。すでに陽は山の向こうに沈みかけている。夕日が山の背に入り、山は黒い影を茜空に映し出している。 『暗くなるよ』と僕が言うと、彼女は微笑みながら、『逢魔が時を心配している?』とホラー染みた言葉を言う。 『でもね、本当にそうかもね・・・。私の命を、この池が奪うのかも?』 『なんだよ、それ!お前、俺の目の前で死ぬとか言うなよ』 『例えだよ。例え・・・』  彼女は微笑みながらそう言うが、実際は言葉通りになった。  彼女は翌日、この世を去った。  最後に『1年後、あの池に来てくれる?来てくれるなら、昨日と同じことをして・・・』と残して。
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