犬も走れば

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「本当に、こんなことして良いのか!?」  二匹の犬は目的地を目指しアスファルトを駆け抜けた。 「あぁ、御主人様のためだ」  コタローは歯を食い縛ったまま、ぶっきら棒に答えた。口に咥えたバッグが激しく揺れる。 「人間なんぞ、放っておけば良いだろう! 機嫌を損ねれば、また元に戻ることになるかもしれん!」  サスケはコタローに叫んだ。呼吸が荒い。体力の限界が近い。 「そうだな、次は無いかもな」 「全てを掛けるってことか? まったく、お前ってやつは!」 「巻き込んで悪いな。うまくいけば、その時は揃って遠吠えだ」 「こんな時にふざやがって。……まぁ、お前のためなら、仕方あるまい」  以前の飼い主に段ボールに入れられ放置されたのは一年前、コタローとサスケがまだ一歳の時のこと。 「ここで待っててね」と言われ、それに従うも、無情にも時間ばかりが過ぎていく。  薄々勘付いてはいた。道行く人の眼差しは哀しみを含み、幼い子が指差すと、親がそれを制することもあった。そんな人々を見て、コタローはサスケに言った。 「俺達、捨てられたんだな」 「そんな訳…ないだろ?」  そこへ現れたのが、今の御主人である真美。妙子の母親だ。  二匹の飼い犬は必死で尻尾を振った。
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