犬も走れば

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「ちょっと、妙子。待ちなさい!」  真美と妙子は人混みの中を走り抜けた。 「もう、あの子達ったら」  真美の頭に不安がよぎる。コタローとサスケは大事な家族だ。  あの子達が居るから、安心できる。  女の手一つで妙子を養うために苦渋の選択を迫られた。亡き夫のためにも、泣きごとは言ってられない。  朝早くからパートとして働き、夜はスナックの店員だ。今となっては、昼はパートのリーダー、夜は『ママ』と呼ばれるほどになった。  安心して、娘を残して夜の仕事に出掛ける事ができる。 「お母さん! もう少しだよ!」  妙子はいつの間にこんなに成長したのだろう。  必死に追い掛ける背中。それほどまでに娘にとって大切な存在となったコタローとサスケ。  夕焼けに伸びる影が離れていくと、思わず言葉が口から溢れる。 「ごめんね、妙子……」  コタローとサスケを拾ったのは哀れに思えたからだけではない。 「妙子、お母さんもう行かなくちゃ」  その時の妙子の悲しい表情を少しでも和らげてあげたい。そんな願いを二匹の犬に託したのも事実だ。
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