憩い( 恋 )

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憩い( 恋 )

 15分後、僕と莉紗は、華を連れてアパートの僕の部屋に帰る。  華が悲しそうに、ピエロ人形を見つめている、  僕は、まずピエロの服を脱がせ、体躯部分を修理用ルーペで覗きながら修理工具で慎重に分解する。人形の中にオルゴールが入っていた。  やがて破損しているゼンマイのネジ巻き部分をみつけ新しい部品と交換していく、僕の趣味は玩具修理の何でも屋なので、オルゴールを含むあらゆる種類のパーツが常に部屋に保管されているのだ。  莉紗と華が心配そうに修理作業を見守り続ける。  約30分位で無事修理は終わる。  僕がゼンマイを巻く。 ピエロが首を振りながら奏でだしたメロディは、何と歌手リコが歌う『憩い(恋)』だった!  恋人二人で過ごす時間が如何に優しく心を癒してくれる大事な憩いであるかと、語る様に優しくに歌い上げた愛のセレナーデである。  ――出逢いは、コンビニでアルバイトしている莉紗に僕が一目惚れした。  毎日コンビニに通いつめるうち、莉紗のバイトのシフトが分かった。  莉紗にレジで数回僕の買い物の会計をしてもらったり、彼女が商品を陳列棚に並べている時を狙い 「このラーメンどこに置いてますか?」  等色んな商品の場所を聞き彼女に商品棚に案内して貰ったりする事を繰り返し、彼女に僕の顔を覚えてもらうことに成功した。  ある日彼女のバイトの帰りに偶然出会ったふりをして、 「これからもし時間があったら、お茶でもどうですか?」  彼女に声掛けする。顔見知りの僕に気を許したのか、莉紗がお茶のお誘いに応じる。  カフェでの楽しい会話から僕と莉紗は意気投合し、僕たちの付き合いは始まった。  結婚するまでの2年間、食事、映画、旅行等と、時には莉紗と口喧嘩をしてすねられもしたが、楽しい時間を過ごせた。  プロポーズは、忘れもしない3年前の冬、莉紗の部屋で!  彼女が調理した鶏もも肉のイタリアンステーキ、イタリアンサラダとパンを美味しく味わい、赤ワインを堪能した。  食事後に赤ワインの酔いの力を借りて勇気を振り絞り、ハート型デザインのダイヤの指輪ボックスの蓋を開け、それを彼女に差し出し、 「莉紗は、この世で一番大切な女性だ、必ず幸せします、僕と結婚してください!」  彼女から溢れる喜びの微笑みが、プロポーズOKを物語っていた。  その時テレビからは流れていた曲が『憩い(恋)』で、二人の想い出の曲となったのだ。    オルゴールの曲を聞き終わった莉紗の顏は、僕のプロポーズシーンを思いだしたのか、照れて赤くなっていた。  華は、喜びをほほに浮かべて、 『「憩い(恋)」は私の大好きなリコさんの曲で、親友にも聞かせてあげたくてこのオルゴールを選びました』 「ありがとう、親友の誕生日に間に合います。今から渡しに行きます」  ペコペコと僕に頭を下げお礼を言いながら、急ぎ早に手提げ袋と赤い薔薇の花束を持ち部屋を出ていく華。  華が出ていくのを確認してから、莉紗が見惚れるような笑顔で僕に抱きついてきた。    その日以来、僕たち夫婦のギスギス感は消えた。 ――ピエロ様様だ! 了
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