変わらないドール

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 全ては変わってゆく。両親と離れ、社会に出て、結婚し、家庭をもち、家族を得て、そして失ってゆく。 「マスター、マスター、疲れましたか?」 「そうね、少し眠くなったかも」  長く連れ添った夫も、両親と共にあちらで私を待っていてくれるだろう。  実り多き人生だった。子供達もそれぞれに、それぞれの人生を生きている。心配は尽きないけれど、幸いにも、彼らにも支えてくれる者がいる。心配ではあっても、不安ではない。 「アンジェリカ……」  私は手を伸ばしてアンジェリカの頭を撫でた。心残りがあるのは、この子だけだ。 「マスター、どうしたの?」  あどけなく首を傾げる、私のドール。私がいなくなっても大切にして欲しいと、孫娘には重々頼んである。気性の優しいあの娘なら、きっと大切にしてくれるだろう。だけど。 「ねえ、アンジェリカ」  私のドール。 「なあに? マスター」 「……ううん、なんでもない」  ごめんね。私は良いマスターじゃなかったね。  ありがとう。それでも、あなたは変わらず親友でいてくれた。  感謝も謝罪も飲みこんで、私は微笑んだ。 「大好きよ、アンジェリカ」  嬉しそうに笑うアンジェリカ、私のドール。 「私もよ、マスター」  最後まで、変わらないアンジェリカ。  ありがとう、またね。  心の中で囁いて、私はそっと目を閉じた。
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