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「シェバート卿の処遇は決められませんので、息子をどうかよろしくお願いしたい」
「それは、〈私〉に対するものでしょうか」
「〈どちらも〉と言いたいところですが、今はシェバート卿に頭を下げます。真実を知る者が減るのはあまり良きことではない。しかし、きっと晴らされることでしょう。私のような無茶はしないように」
「…肝に銘じておきます」
最後にゾルフはラオルに視線を移す。
「余裕が無いので自己紹介は省きますが…ラオドルーシェ王子ですね」
「ゾルフ陛下、お初にお目にかかります。こんな状態で申し訳ありません」
「月日が経つのは早いものだ…想像よりずっと悪い方向へ進んでいるのでしょう」
王の座にいなかった分詳細は分からないが、一国の王子が騎士だけを連れてこんな辺鄙な国に来ている時点で普通ではない。
「貴方も息子と同じくまだお若い。道は一本ではないですから、視野を広く持てばまた違う何かが見えてくるでしょう。魔術師はどうしても魔法に目が眩んでしまう。魔力を持たない者と共にあるのは、魔術師としての理想と言っても過言ではない。シェバート卿はその全てを満たしています。どうか大切に」
少しは父親らしくあれただろうか。この子に道を示せるような、大きな父親に。
「アルゾフ、ゆめゆめ忘れるな。私は昔も今も、ずっとお前を愛している。たった一人の大切で憎たらしい息子。この子がいれば、二度と道を踏み間違えることはないだろう」
(父上、本当は分かっていました。自分がとても愛されていて、魔法などなくとも幸せだったことを)
ただ魔法を羨んでしまったのが全ての終わりの始まりだった。好奇心から興味へ、興味から熱望へ、熱望から貪欲へ。止まることなく走った結果、全てを失うことになってしまった。
「ゼシリィ・ローバ・カロセルア〈神よ。この者の罪を我に負わせください〉」
罪流しの呪文を唱えると、徐々にゾルフの身体が光り始めた。それに比例して、アルゾフの瞳に光が戻り出す。
「わた、しも」
必死に息を吸うと何度も咽そうになった。しかし、言わなければ。もう二度と会えないのだ。もう二度と、この思いは届かないのだ。既に指先が消え始めている父に届きたいと、何度も手を伸ばそうと試みるが、全く力が入らない。
「…陛下」
そんな手をメアムが掴み、親子の手をつなぎ合わせる。
(…そうだ。父上の手は、いつも豆だらけだった)
父は天才で、苦労せず霊術を扱っていると勘違いしていたが、努力の賜物であったのだとようやく理解した。
「私も、愛しています、父上。ずっと、ずっと、申し訳、ございませんでした。こんな、どうしようもない愚息で、本当に。罪を、負うべきは、私なのに」
「私はお前が息子でよかったと思っている。お前なら私よりずっと良い国を作れるはずだ。魔力が無くともオアシスは維持できる。帝都に惑わされず、お前の目を信じるのだ。そして―――大切なものは護り通せ。王としても、男としても」
髪の先端、膝下、肩。光る部分が増え始めた。せめて痛みがあってくれれば生きた心地になれたのだが。
―――もうそろそろか。ゾルフは息子の手を更に強く掴む。
「父、上」
「以前は別れを告げられなかったからな。最期にお前の顔を見られて、私は幸せ者だ」
小鳥のさえずりが聞こえてくる。現実はまだ夜明け前だ。もう魂が混沌へ落ちたか。視界が揺らぎ、ぼんやりと光が降ってくる。ゾルフは遠い天を見上げ、満足そうに微笑んだ。
「―――今会いに行くぞ、エイラン」
その言葉を最後に、ゾルフの身体が光となって消え去った。唐突に無くなった温もりに、アルゾフは子供のように泣き喚く。そんな彼を抱き締めたメアムも涙を流していた。
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