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プロローグ
〈魔法〉とは万能の能力ではなく、〈医術〉もまた完璧な知識ではない。互いにそれぞれどうしようもなく埋められぬ穴がある。
この世界における掟の一つとして、それら二つを同時に得ることは禁じられていた。欠けているのであれば補うようにもう片方の力を得ればよい―――そうはいかないのが人間だった。
魔法も医術も際限が無い。どちらも得るまで、そして得てからの学びが成長を生む。簡単にその違いを表現するとすれば、戦えるか否か、命を救えるか否かだ。
それにより、いつしか世界には魔法と医術を学ぶ環境が整備された。魔法学校と並ぶようにして医学校が作られ、完全に交わることのない道ができたのである。魔法を扱う魔術師、医術を学ぶ医師―――そして医師から派生した薬学を極める薬師。その三職に就くことは容易ではなく、実際それぞれの資格を得ている人数はとても少ない。
これまで世界の平穏が保たれてきたのは、特段秀でた者がいなかったためである。逆を取れば、平均を遥かに超えた者が現れれば均衡が崩れるという意味だ。
そして今正に、世界のバランスが偏りを見せている。今一度元の状態に戻すか、もしくは―――〈全世界の消滅〉の他対処法が見つからないほどに。
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